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「いやあ、自信あったんだよ。肉を切るのは得意だったからさ、牛と同じだろって思ったら意外と難しくてさ、人間って」
笑いながらそんなことを話し出す蒼井。それは嘘なのか、本気なのか。
「……えっと、なに言ってんの? 冗談、だよな?」
「いや、冗談なんか言う訳ないじゃん。俺さ、昨日豊元に呼ばれてあいつの家に行ったんだ。そこでなんか俺のことが好きだとか言われちゃって。めんどくせーなって思ったんだけど、そのときやっと気がついて。ああ、こいつさえいなくなれば全てが解決するんだ、って思ってさ」
蒼井は昨日のことを思い出すように手を振りかざす動作を交えながら話す。それから、「あ、そうそう、これ証拠」と言ってスマホを見せてきた。そこに写っていたのは、紛れもなく青白い顔をした豊元の首だった。
「ひっ」
喉元が恐怖でぎゅっと締まる。背筋が凍りつき、全身に鳥肌が立つ。
「こんな簡単なこと、なんでもっと早く気づかなかったんだろうなぁ。そしたら俺と周平は付き合える訳だろ? 簡単なことじゃん」
楽しそうに笑う蒼井。こいつはとんでもない告白をしてきやがった。豊元はこいつに殺された? だからラインも既読にならないのか。
身体が小刻みに震える。目の前にいるのはバイト先の仲間でもなく、友人でもない。ましてや、おれに好意を寄せている男性でもない。ただの殺人鬼。
おれはガタガタと揺れる奥歯に耐えながら、どうやってこの現況を乗り越えればいいのかだけを考えていた。
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