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思わず俺も声が出てしまいそうだった。口元を両手で必死に押さえてそれを防ぐ。両目はこれでもかってぐらいに開いていたはずだ。
「急にごめん。でもさ、どうしても伝えたくて」
「……うん」
「いや、その、付き合ってほしい、んだよ。いやあの、返事はさ、今じゃなくてもいいっていうか」
姿は見えないが、慌てふためく周平の顔が想像できた。俺はまるで自分のことのように心臓が高まっていくのを感じた。
「ごめん、急にそんなこと言われて、びっくりしちゃって」
「だよな。ごめん。なんか、その、豊元が入ってきたときからずっとさ、好きだったんだ。一目惚れっていうか」
「……うん。ありがとう」
「あー、なんか、うまく口が回らねーわ。と、とりあえずさ、考えておいてほしい。答えは今じゃなくてもいいからさ」
「……うん、わかった」
「……えっと、送ってこうか?」
「ううん、大丈夫。ここから家も近いし」
「一人暮らしだよな? 大変だ。俺も一人暮らしだから料理とかめんどいのわかる」
「……うん」
周平は明らかに空回っているのがわかった。どうでもいいような会話で場を繋いでいる。一歩を踏み出して彼に助け船を出そうかとも考えたが、やっぱり俺が出る幕はないように思えた。
物音を立てないようにその場所から離れて、ゆっくりと裏手に回る。
自転車の鍵をカチャカチャする音が聞こえ、俺に気づくことなく二人は店から離れて行った。それを確認したあと、自分の自転車の鍵を出して鍵穴に差し込んだ。
『……俺、お前のこと、好きなんだよ』
周平の言葉が耳に残っている。心が騒ついていた。
なんであんなこと言うんだよ。ずるいよ。俺の方が先に好きになったはずなのにさ。
周平は俺になにも言っていなかった。好きな子がいるだとか、豊元のことが気になってるだとか、そんな話は一切していなかった。
「豊元って、結構可愛くね?」
彼女が新人として入ってきたときに冗談混じりでそう言ったのは俺の方だ。あいつはそっけない態度で、「あー、まあ、どうかなぁ」と曖昧な答えを返すだけだった。
俺が親しげに豊元と話していたのに気づいて、焦ったのかもしれない。だからこのタイミングだったのか。
豊元はどうするんだろう。どう返事をするんだろう。
夜道を走りながら、頭の中ではそんな考えが巡り続けていた。
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