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『蒼井くん、今日バイト終わったら時間ある?』
それは、周平が彼女に告白をした次の日の午前中に豊元から送られてきたラインだった。
咄嗟に周平のことかな、と思いながらも返事をする。
『別にいいけど、どうしたん?』
『ちょっと相談したいことがあって』
『そうなんだ。わかったいいよ』
『ありがとう』
どうして俺に? と考える。
豊元とは確かによく話す仲だ。休憩中や仕事終わりに一緒になると、どうでもいい話で盛り上がる。
「蒼井くんって話しやすいよね」
「そうかなぁ、別に普通だろ」
「わたしにとったら、普通じゃないんだって」
「なんだそれ」
「ふふふふ」
彼女は目をつぶるように笑う。その姿は小動物みたいで確かに可愛かった。
バイト中は厨房とフロアとで分かれているため話す機会はあまりなかったが、何度か目が合って無駄にニコッと笑われた。
混雑時のキッチンは戦場だ。オーダーが溜まり、伝票が列を作る。
皿に肉を並べる作業は効率が命。右手で肉を計りに乗せ、左手でタレをかける。冷蔵庫は一日に何度開け閉めするのかわからない。
動き回るから、額に巻くバンダナには汗が滲みていく。
「やべ、肉なくなりそう。蒼井、ちょっとロース切ってきて」
事前に用意していたロース肉が切れかけている。オーダーはまだまだ残っていた。
先輩の指示の元、俺は厨房の後ろに移動して冷蔵庫からロース肉の塊を取り出した。
それを一口サイズに包丁で切っていく。
肉を切っているときは無心になれる。悩みとか全部消えて、どこかへいった。豊元のこととか、周平のこととか。
「おい、もういいぞ」
「……」
「蒼井! 聞いてんのか? もういいから、オーダー手伝え!」
そこでハッと気づき、俺は切り分けた肉を運んだ。
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