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「お疲れ様」
そう言ってグラスに入った水を手渡された。ピークが終わり、客足が落ち着いたタイミングだった。
豊元も若干汗をかいているのか、化粧が取れかかっているのがわかる。
「ありがとう」
それを受け取って一気に飲み干すと、全身に行き渡るような爽快感があった。
「今日も忙しいね」
「ヤバかった。マジでさっきはもう終わんねーんじゃないかってぐらいオーダー溜まってさ」
「焦ってる姿カッコよかったよ」
「焦ってねーわ」
「あははは」
じゃあまたあとでね、と小声で言って彼女は去っていった。今日は周平は休みだ。あいつのことを思えば、少し胸が痛くなった。
俺と豊元が仲良く話しているところなんて見たら、それこそ機嫌が悪くなるはずだ。
決して口には出さない優しさが周平にはある。いい奴なんだよ。だからこそ、嫌われるのは嫌だ。どうすりゃいいのか。
そして仕事を終えた俺たちは、自転車を押しながら彼女の家へと向かった。
豊元の自宅であるアパートの近くにあった自販機の近くにチャリを置いて、生垣に腰を下ろす。
微糖のホットコーヒーと、ミルクティー。
「どっち?」と言って手渡すと、彼女は当たり前のようにミルクティーを選んだ。
「ありがとう」
缶を開けて飲むと、苦味のあるコーヒーの温かみを感じた。息がより一層白くなって夜に消えた。
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