やっと気づいたこと

4/11
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「お疲れ様」  そう言ってグラスに入った水を手渡された。ピークが終わり、客足が落ち着いたタイミングだった。  豊元も若干汗をかいているのか、化粧が取れかかっているのがわかる。 「ありがとう」  それを受け取って一気に飲み干すと、全身に行き渡るような爽快感があった。 「今日も忙しいね」 「ヤバかった。マジでさっきはもう終わんねーんじゃないかってぐらいオーダー溜まってさ」 「焦ってる姿カッコよかったよ」 「焦ってねーわ」 「あははは」  じゃあまたあとでね、と小声で言って彼女は去っていった。今日は周平は休みだ。あいつのことを思えば、少し胸が痛くなった。  俺と豊元が仲良く話しているところなんて見たら、それこそ機嫌が悪くなるはずだ。  決して口には出さない優しさが周平にはある。いい奴なんだよ。だからこそ、嫌われるのは嫌だ。どうすりゃいいのか。  そして仕事を終えた俺たちは、自転車を押しながら彼女の家へと向かった。  豊元の自宅であるアパートの近くにあった自販機の近くにチャリを置いて、生垣に腰を下ろす。  微糖のホットコーヒーと、ミルクティー。 「どっち?」と言って手渡すと、彼女は当たり前のようにミルクティーを選んだ。 「ありがとう」  缶を開けて飲むと、苦味のあるコーヒーの温かみを感じた。息がより一層白くなって夜に消えた。  
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!