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「で、話って?」
「……うん」
彼女は俺よりも小さな体でちょこんと座っている。バイト中は纏めている髪の毛も、終わった途端に肩を覆う。
俯いているためか、その髪で顔が隠れている。自販機と街灯の薄い明かりで辺りを照らしてはいるが、彼女の表情は伺えない。
「実はさ、わたし周平くんに告白されちゃって」
「え」
知っている事実にわざとらしく驚く。予想通りの展開に、思わず目を逸らしてしまった。
「昨日、バイト終わりにお店の裏口でね。急に言われてびっくりしちゃったんだよね」
豊元は顔を上げることなく、俯いたまま話し続けた。
「一応さ、答えはすぐじゃなくてもいいって言われてて」
「うん、そうなんだ。びっくりしたわ」
「だよね。ごめんね急にこんなこと相談して」
「いやいや、まあ、うん、そうだな」
返答に困っていると、彼女は俺を覗き込むようにこちらを見てきた。
「え、なに」
「なにも思わないのかなぁって思ってさ」
「なにも思わない? どういうこと?」
「ふーん、そういう反応なんだ」
「は? なにが?」
豊元は少し怒ったような不思議な顔をしている。その理由がわからない。
「わたし、返事しちゃおうかな」
「告白の?」
「そう。いいよって」
「え、あー、まあ、お前がそうしたいのなら、いいんじゃないのか?」
「……本気で言ってる?」
「本気で? いや、まあ、そうだな」
「もう。ほんとに蒼井くんて鈍感だよね」
彼女は立ち上がり、俺を睨みつけている。どうして怒っているのかよくわからなかった。
「なんなんだよさっきから。俺に相談だったんじゃねーのかよ」
「相談じゃないよ。……相談なんかじゃない」
今度は泣きそうな顔になった豊元は、「バカ」とだけ言って自宅へと帰っていった。
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