やっと気づいたこと

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 訳がわからなくて、あれから家に帰ってからもずっと頭の中に豊元の言葉が残っていた。どうして「バカ」なんて言われなきゃいけないのか。  部屋に戻ってからもムカついてぬいぐるみを壁に叩きつけたほどだ。  次の日。  バイトに行って豊元がいたら嫌だなと思っていたが、幸いにも彼女は休みだった。  その代わりに周平はちゃんと出勤していて、ホール担当として働いている。 「三番テーブル、注文まだかって怒ってるわ。急げる?」  ピーク時はやっぱりオーダーが溜まっていて、どれが三番テーブルの注文かわからない。 「ちょっと待って、今やってるから」  少しイライラしながら俺がそう言うと、「悪りぃな」と片手を顔の前に立てて謝ってきた。別に周平が謝る必要なんてないのに、こいつはイラついている俺の姿を見て気遣ってくれている。  それに気づいて、「急ぐわ」となぜか元気が出てきた。 「なあ蒼井さ、今日飯行かね?」  バイト終わり、周平が俺を誘ってきた。時刻は夜の十一時過ぎ。 「まあいいけど、なに食うの?」 「うーん、ラーメンとか?」 「あ、いいねぇ、行こ行こ」  そんな会話がされて、俺たちは近所のチェーン店のラーメン屋に入った。テーブル席に案内されて、店員が注文を聞きに来る。  適当にそれぞれメニューを伝えると、彼はおもむろに水を飲みながら話し始めた。 「……実はさ、俺、豊元に告ったんだ」 「え」  ごほっごほっ、とわかりやすいぐらいにむせた俺は、「急になんだよ」と紙ナプキンで口元を拭いながらそう言った。 「……お前がさ、豊元のこと気になってるっていうのがわかったから」 「は? なんだよそれ」 「そうだろ? あいつが入ってきてすぐ可愛いとか言ったりさ、楽しそうに会話してんの見て、焦ったんだよ。抜け駆けみたいで悪いとは思ったんだけど」  周平はもう一度グラスを持ち、それを飲み干した。すぐに水が入ったピッチャーを持ち上げてコップに注ぐ。 「もやもやしててさ、お前に言わなきゃってずっと考えてた。言わなくてごめん」 「いや、別に俺に断りを入れる必要なんてないだろ……」 「俺、蒼井と一緒にいるのは楽しいしさ、関係が崩れるのは嫌なんだよ。だけど、豊元のことを考えると、気持ちを抑えられないっていうか」  俺マジ最低だよな、と周平は大きなため息を吐いた。 「で、豊元はなんて答えたの?」  結果を知っていながら、そう尋ねる俺の方が最低だ。 「返事はまだ。すぐじゃなくていいって伝えたから」 「そう、なんだ」    それからしばらく経ってラーメンが二つ運ばれてきた。盛り上がる会話なんてなくて、ただただ麺を啜る音だけが俺たちの中で鳴っていた。
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