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「まぁ、とりあえず飲んで」
ソファーの前で正座する彼の前に、コーヒーを置く。
細い瞳には、黒い波がゆらゆらと揺れている。
「実は」
虚ろにつぶやきかけた彼は、弱音をコーヒーとともに一気に流し込んだ。
「実はね」と、今度は明るく語調を変え、ビジネスバッグから紙袋を取り出してくる。
「これを、和歌子さんにプレゼントしたくて」
「えー! ありがとう」
私は、彼の髪を愛犬を可愛がるように、ぐしゃぐしゃと撫で回した。
「はははっ」と無邪気な笑みを浮かべる彼。
紙袋の中身は、朱色のストールだった。
「首元の痣を気にしていたから」
彼は、私の鎖骨あたりを指差しながら、顔を綻ばせた。
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