紅い首輪

４

　きっと、今日もいろいろなことがあったのだろう。

　出来の悪い息子だと蔑む父、見殺しの母、七光りと後ろ指を指す社内の烏合の衆。

　数えきれない圧力が肩に重くのしかかっているのが、ありありと見える。

　けれど、彼は自らを顧みず、いつも私のことを一番に想ってくれている。

　こんな一人ぼっちの野良に寄り添ってくれている。

　その温かさを実感する度に、目頭が熱くなり、息ができないほど胸が苦しくなってくる。

　「泣き虫だね」

　少しだけ意地悪そうに言うと、彼はそっと涙を拭ってくれた。

　冷たい手。

　ここに来るまで、当てもなく街を彷徨っていたのだろう。

　私は、大げさにはしゃいで、ストールを広げてみせた。

　電球に照らし出された朱の光が、カーペットやソファーを鮮やかに彩る。

　「綺麗。この間買ってくれたベージュのトレンチに合いそう」

　クローゼットに手をかけると、彼の両腕が背中越しに私を包んだ。

　力強いものの、それは優しい抱擁だった。

　「大丈夫だよ。もうあの夢は見ないから」

　耳元で囁くと、彼は私の首の痣に、そっと口づけた。

　「どういうこと？　」と気にはなったが、あえて聞き返すことはなかった。

　その言葉の意味を知ったのは、それから間もなくのことだった。