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 私たちの前に、ジントニックとアイスティーが並ぶ。  彼は、お酒が苦手らしい。  「見た目はほぼ同じなのに」と彼の瞳を食い入るように見つめていると、照れて目を伏せてしまった。  「すみません。本題、いいですか」  真剣味のある低い声に、私も茶化すのはやめ、姿勢を正した。  「最初に、俺は兄を尊敬し、感謝もしています。黒島さんもきっとそうだと。その上で、この手紙を読んでいただけると」  そう言うと、コートのポケットから真っ白な封筒を取り出し、グラスの隣にそっと置いた。  小刻みに震える手を膝の上に置き、束の間、逡巡した後、封筒に手を伸ばす。  今度は、四枚も便箋が入っている。  気がかりを消化しきれぬまま、私は二つ折りにされた手紙を広げた。  圭一さんの端正な文字が、まっすぐ並んでいる。  そこには、私が知る由もなかった彼の葛藤と慈愛が記されていたのだった。
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