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 事情聴取を受け、家に戻ってきたのはわたしが帰宅するほんの少し前だったらしい。  管轄する淡海県警東岸署(あわみけんけい・とうがんしょ)の刑事課に知人がいたのは不幸中の幸いだった。  その口添えもあり、思ったより早く開放されたとのことだが、それでも(こた)えたようである。  その後、モバイルミールにも連絡したのだが、これがまた不気味だった。  登録が抹消されていないせいで酷い目に遭ったと抗議の連絡をしたところ、アカウントの削除は数年前に完了していると返ってきたらしい。  管理側が嘘をついているのでなければ、怪奇現象の類か、さもなくば何者かが改竄(かいざん)を加えたか。  大変だったねぇ。 「むー……」  指先で毛並みをもちもちと揉みしだくと、わたしの膝の上で柴本は気持ち良さげに声を漏らした。  途中で気付けた訳だし、むしろお手柄じゃないの? 「そうなんだけどよ。まんまと騙されかけちまったんだ。おれも鼻が鈍っちまったと思うと、悔しくって堪らねぇ……」  はいはい、そこまで。  眉間に皺を寄せ、歯を剥き出しにして悔しそうに唸る同居人を揉んだりこねたりしてやる。  凹んだ顔を見せることは殆ど無いだけに、少しばかり心配だ。とりあえず今は休むがよい。 「くぅーん♡」  そうか、気持ちが良いか。    ソファに横たわって尻尾を振りながら、わたしの膝枕でごろんごろんしている男を見る。  少し高めの体温と触り心地の良い毛並み。  頭の隅で、今しがた聞いた話を反芻(はんすう)する。  今回、彼が騙されそうになったのは、嗅覚が鈍ってしまったからではない。  おそらくはその逆で、鼻がせいで罠に()まったのだろう。  ――『真なる人の会』が関わっているような気がしてならなかった。  柴本から聞いた話だけでは確証が持てない。けれども災難だったと通り過ぎるべきではないと強く思った。
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