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日々の暮らしの中、わたしを変えてしまった78キロの毛玉もとい同居人に目を向ける。目が合った。
あいかわらず膝枕で横になったままだが、眼光の鋭さを取り戻している。
「また考え事か?」
そうだけど、まだ纏まってない。
正直に返すと、柴本はするりと機敏な動作で起き上がり、体のわりに大きくて分厚い手でわたしの肩をがしっと掴んだ。
「そっか。なら今のうちに言っておくけどよ。首突っ込むのは止めてくれ、な?」
肌に触れるか否かの距離まで、黒い鼻面を近付けて言う。吐く息の湿り気と温かさがくすぐったい。
こちらの考えはだいたい匂いでお見通し――もとい嗅ぎ通しか。
「もし、おれの頼みを聞けねぇってなら――」
まだ何も言わないうちに、わたしは柴本の太い腕でソファに押し倒された。赤茶の毛並みに覆い被さられて身動きがとれない。
人間よりも少しだけ高い体温、それとハァハァと荒い呼吸音と心音。
言うこと聞けなきゃ、どうするつもり?
途切れたままの言葉に煽るように返す。疲れて動けなくするつもりなのは明白だ。
テーブルの上に置いた携帯端末が震動して着信を告げたのは、肉体労働に慣れた指先を肌に感じたのと同じタイミングだった。
「なんだよ」
わたしと柴本は、即座に現実に引き戻された。
(了)
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