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2.
柴本光義は便利屋だ。
法に触れない範囲で頼み事を請け負い、解決のため動くことを生業としている。
舞い込む依頼のすべてを、何も考えずただ解決すれば良いとは限らない。口癖のように彼は言う。
悲しいことだが、騙して違法行為に荷担させようとする、あるいは見知らぬ誰かを傷付けさせる意図のある内容がしばしば紛れ込むのだ。
法を犯さず、意図して誰かを傷付けることは柴本のポリシーに反する。
だから、可能な限り依頼人と言葉を交わし、その言動に嘘や悪意の匂いが混じっていないか嗅ぎ分けるのだ。
種族を問わず、人類諸族の感情は匂いに宿る。表情や声を取り繕っても体臭までは誤魔化せない。それが同居人の持論だ。
けれども今回の依頼では、それを真っ向から否定されたとみえた。嗅覚の鋭さを鼻に掛ける彼にとって、いたく鼻っ柱をへし折られる事態だったらしい。
耳の後ろや首のまわりを掻いてあげるうちに傷心も和らいだようで、何があったのかをぽつぽつと語り始めた。
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