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 注文のあった店舗は、幹線道路から外れたところにあった。民家が点在する以外には、森や田畑ばかりが広っている。  そんな中、地図アプリには同じ場所に複数の店舗情報が表示されていた。  唐揚げ弁当の専門店。本格ローストビーフ丼。本格チキンカレーに名店の散らし寿司。それから……。  どうにも怪しい。が、既に引き受けてしまったので向かってみると、案の定、そこには年季の経ったラブホテルが1件経っているだけだった。  1階にあるガレージに車を停めて2階の客室にそのまま上がれる、いわゆるカーポート型と呼ばれる形の建物である。 「大丈夫か、これ……?」  地図情報と目の前の風景を数回ほど見比べてから、思わずため息が漏れた。  利用客を待つだけでは経営が成り立たないのだろう。汚れて黒ずんだままの外壁や、手入れが雑な生垣を見れば明らかである。  空いている時間と設備を利用して稼ごうと考えるのは自然なことだ。  おれが経営者なら同じ事を考える。柴本は思った。  ただ、店舗はひとつなのに幾つも別の看板を掲げるのは良くないんじゃないかと付け加えている。    諸々の不安要素を見なかったことにして、屋根付きの三輪スクーターを降りる。が、犬狼族の鼻には不快に感じる香りは見過ごす――もとい嗅ぎ過ごすことは出来ず、思わず足を止めた。
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