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人間用ボディソープの鋭くてきつい香料。
おそらくは部屋に備え付けなのだろう。
敢えて強い匂いで獣人や他の種族を追い払う、人間至上主義者ご用達のホテルだったか。外壁の薄汚れた宿泊棟を見上げ、柴本はふん、と息を吐いた。
登録抹消ミスもそうだが、配達員の指名間違いも数年前にはあり得なかった筈だ。
柴本が登録していたモバイルミールは、注文者が配達員を直接指名出来るシステムを採っている。
配達員にとっては多数の指名が得られれば収益向上に繋がり、注文者は贔屓の配達員を指名することで安心して注文できると、双方にメリットがあるのが売りだ。
異種族恐怖症持ちが玄関先で自分と異なる種族の配達員に遭遇し、トラブルが発声することを避けたい意図もあった。ウェブサイトでは巧妙に直接的な言及を避けているが、少し読めば分かるようになっていた。
口コミでも『異種族恐怖症でも安心して利用できる』と、こちらは直球の説明がなされている。
終わったら文句の一つでも入れてやる。
息を吸って吐いてを数度繰り返してから、柴本は管理人棟のドアベルを押した。
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