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「モバイルミールの柴本でーす! 注文品を取りに来ましたー!」 「はーい! ちょっと待ってねー!」  明るい返事に続き、パタパタとスリッパの足音を立てて管理人とおぼしき人物が出てきた。()せた体格をした、初老の人間種男性である。  玄関に立つ赤毛の犬狼族を見るや、顔面に笑顔を貼り付けたまま硬直する。  よくある反応である。けれども、骨張った体からは恐怖の匂いが漂うことはなく、うっすら喜びや楽しさに似た体臭を(まと)い続けているのがむしろ不自然だ。 「急いで、でも安全運転で頼むよ。お客さん待ってるから」 「うっす。注文番号467。3種チーズのタコライス、確認しました。良い匂いっすね」  なんだコイツ、異種族恐怖症(ゼノフォビア)じゃねぇのか?  心の声を漏らさないよう顔面の筋肉に意識を凝らしながら、つとめて明るい声で返した。  様子がおかしいけど酒に酔っている訳でもなさそうだなと口に出さず判断する。酒臭くねぇし。  精神疾患としての診断が下るか否かとは別として、自分と違うバックグラウンドを持つ者に対して警戒するのは別段おかしなことではない。  多種族共存を掲げる淡海県河都市(あわみけん・こうとし)の住民であっても、それは変わらない。  最小限のやりとりを済ませ、管理棟を後にした。  どうにも気に入らないが、頼まれもせずに他人の事情に首を突っ込む余裕などない。それより先に自分の生活のことを気にしなくては。  そう言い聞かせながら、配達品を載せたスクーターを発進させたのだった。
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