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4.
違和感や不信感をどうにも拭い去れないまま、スクーターを走らせ続けた。
鼻の奥がチリチリ痺れるような感じがする。
何か良くないことが起こる前の予兆だ。それは昔からよく当たった。
ため息が漏れる。思い返せばおかしなことばかりだ。
登録を抹消した筈のケータリングサービスから届いた、数年ぶりの配達依頼。そして明らかな指名の間違い。
流行っていないホテルが副業でやる飯屋は良いとしても、『人間以外お断り』な雰囲気丸出しの店構え。
流行っているとはお世辞にも言い難く、値段だってそんなに安い訳じゃない。
異種族恐怖症のように見えるのに、少しも感情の匂いが変わらない店主とおぼしき男。
1時間前の自分をグーで殴りたい衝動に駆られた。体よく小遣い稼ぎの話が舞い込んできたと浮かれやがって。
一度受けた依頼を蹴ってしまっては信用に関わる。ひとたび失った信頼を取り戻すのは難しい。自営業には致命的だ。
店を発ってから10分あまり。路肩にパトカーが停まっているのが見えた。まっすぐで幅の広い道である。
柴本に言わせれば、違反を検挙するにはうってつけの場所だった。
「そこの屋根付きスクーター、停まってください!」
「へいへーい、っと」
拡声器で呼ぶ警察官に嫌々ながら応じて路肩に停車する。急いではいたが制限速度は守っていたので、問題は無い筈だった。
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