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5.
「すんません。急いでるんですが」
「悪いね。すぐ終わるから協力して」
車体後部のトランクを親指で差しながらも、免許証を出して警官に見せる。白っぽい毛並みの犬狼族である。
「後ろに何積んでるか、見せてもらえる?」
「うっす」
降りてトランクを開け、中にしまった保温バッグのジッパーを開ける。スパイスの効いたタコスミートとチーズの絡み合う濃厚な香りが辺りに漂った。
口中に溜まったよだれを飲み下しながら、腕時計の文字盤に目を落とす。もう正午に近かった。
「美味しそうだね」
「注文ならモバイルミールのアプリからどうぞ。ここの店です」
鼻をひくひくと動かす警官に、柴本は端末の画面を指さしながら軽口を叩いた。
「でも仕事中だからなぁ……」
「あー、大変っすね。メシくらい好きに食わせろって思いますよね。ホントにさ」
白い尻尾をくったりと垂れる様子に、深く頷きながら同意する。
所属組織こそ違うけれども、かつては同じような立場だったのだ。
市民とか国民とかの目に気をつけなければならない辛さや面倒臭さは、十分すぎるほど理解できた。
最近は一時期に比べれば少しはマシになってきたが、それでも未だに世間の目は公務員に対して厳しい。
「まぁ、大丈夫そうだね。協力ありがとう。行っていいよ。ヘンな匂いもしないし」
「ヘンな匂い?」
鼻の奥がチリチリするのが強くなった気がした。サドルに跨がりグリップを握り直しながら聞き返す。
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