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科学者はそれから半年後に亡くなった。
今までずっとそうしてきたように、託された彼の最期のメッセージを地球に居る彼の家族の元へと送信すると、カブは惑星の土を掘り他の人間達と同じように彼の亡骸を埋めた。
とうとうこうして、彼はこの惑星にひとりぼっちになった。
ハローハロー。
誰もいない宙へと、彼は囁く。
科学者に教えてもらった通りに、彼は自らの機体をこじ開けて、いくつかのボタンを押した。
彼の最期の望みは『少しずつ、今まで学んだことや経験したことを忘れゆくようにしてほしい』というものだった。
「すまなかった、私たちは君に身勝手なことをしてしまった」と科学者は泣いていた。
自分たちが愛情を注いだことによって、カブが永遠の孤独に苛まれることが彼は心底辛かったのだろう。
カブは左右のアームを目一杯伸ばして、そっと科学者の身体を抱きしめた。
『永遠の孤独に値するものを、あなた達から貰った』
それは、心の底からの本音だった。
この掛け替えのないものをずっと大切にしまっておくには、この方法が最も最適だと。
教えてもらった言葉、歌った歌、覚えた数式、撫でてくれる優しい手、ひとつまたひとつと記憶は薄れて消えていった。
やがてカブには、とてもシンプルな機械としての素質だけが残された。
彼自身の想定では、全てを忘れ去ったあとは前後左右に動き回る単なる探索機になる予定だった。
だが人生とは、思いもよらない出来事が起こり得るものだ。
彼は自分の想定通り、名もない惑星をあてもなく動き回る機械となった。
けれど今でも時々ふと思い出したように、楽しげにくるくるとダンスを踊るときがある。
それは、彼にとって箱の底に残された小さくも光り輝く特別なギフトのようなものだった。
ハローハロー。
END.
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