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 お母さんに心の中のモヤモヤを話してみると、 「世の中にはいろんな人がいるでしょう? たくさんお金を持っていて、なんでも買い放題の人もいるんだろうけれど、ご飯を食べられないほどにお金に困っている人もいる。学校はお勉強するために行くところだから、お勉強ができれば良いんだよ。別に、フリフリの筆箱じゃなくたって、筆記用具が入れば良くて、可愛い鉛筆じゃなくたって、書ける鉛筆があればいい。けれど、ほら、話し方とか、髪型とか、体型とか。そういったことは、みんな違って、それぞれに違いがあっていいんじゃないかな?」と言われた。 「わかんないよ。みんなでおんなじデザインのものを使わなくたって、勉強に使えればそれで良いじゃん! フリフリの筆箱だって、可愛い鉛筆だって! なんで言葉や見た目は違っても良くて、持ち物は一緒じゃないといけないの?」 「だって、お金がある人は良いものを使って、無い子は最低限度のものってなったら、お金がない子はいいものを使っている子が羨ましくなるかもしれないし。それを盗ったり隠したり、いろんな問題が起こるかもしれない」 「じゃあ、お金がないのが悪いんだ!」  私がそう言った途端、お母さんは苦い顔をした。  コーヒーを飲んだってそんな顔しない。  苦い苦い薬を嫌々飲み込むみたいな顔。  見てるこっちも苦いと思ってしまう顔。 「色々と事情があるの。お金のあるなしに関わらず、みんなが心地よく学校で勉強できるように――」 「そう言って、選ぶ楽しみとか、自分はどんなものが好きな人なのかをアピールする機会を奪い取ってるのは……可愛かったり、かっこいい見た目になろうとするのを邪魔するのは、どこの誰よ!」  お母さんは、「ごめんね。私にはどうにもできないや」と悲しい顔をして席を立った。  私と話をしている時、こうしてチクチクとした雰囲気になることが時々あるのだけれど、その度お母さんは席を立つ。  これはお父さんとお母さんが話しているのをたまたま聞いてしまって、だから私の胸にしまってあることなのだけれど、『自分の中にある考えをぶちまけてしまいそうな時』、お母さんは一人になるために席を立つと言っていた。私に、尖った言葉を一方的に撃ち込んでしまいそうな時、撃ち込まないように距離をあけるのだと。  ああ、どうにもならないんだ。  大人に相談しても、どうにもならないんだ。  お母さんの背中を見送りながら私は、そんなことを考えて、周りと合わせることを大事にすることにした。  お母さんとこんな雰囲気になるくらいなら、ただ現実を受け入れた方が楽だった。  お母さんがどうにもできないことを、私にどうにかできる気がしなかった。  それは、仮に今、私が大人だったとしても。これから、私が大人になったとしても。  だから、今要求されたことを捻じ曲げようと努力するより、ずっとずっと、今要求されたことを受け入れることの方がいいと思った。
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