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 自分の意見、のようなものは、極力捨てた。  何かを発信しなくてはならなくなった時、どのような意見を発すれば周りが喜ぶかを考えた。  裕福さも、性別も、容姿も、何もかもの先端を丸くして、どこかに刺さらないようにした。  だから、私が敵を作ることはそうなかったと思う。  私には指折り数えられる程度の友だちや味方が居て、けれど敵は居ないと言っていいはずだ。  はずだ、とあいまいに言うのは、あくまで私の印象でものを言っているからで、本当はひとりやふたり、いや、もっといるのかもしれない。  私は自分のことを特別可愛いと思ってはいないけれど、この子と比べたら私の方が可愛いかな、なんて思うことがある。本当に、失礼なことだから、そう思ったことを口や顔に出したことはない。  私よりちょっと可愛くない子が、ある男の子のことを好きだと言った。  女子はなんだかんだ恋の話が好きだから、ひそひそ声で、キャーキャーと盛り上がっていた。  私も、その男の子のことが好きだった。でも、彼のことを好きなのは私だけではないということがはっきりとした瞬間、私は恋心を吹き消した。  みんな同じ。そうすれば、みんな心地よく学校生活を送れる。  好きという感情を等しく抱くだけで、誰かが彼を占有することがなければ、みんな心地よく学校生活を送れるのではないか。  このような時は、〝ない〟ほうに合わせるべきだ。だから、私よりちょっと可愛く〝ない〟子に合わせる。彼女が嫌な思いをしなくていいように、私は好きを越えて恋には至らない。  至ってはならない。  同じであることを強いられた過去が、私に告白をさせてくれなかった。  しかし、そんな思考は私特有のものだったらしい。  あちらこちらで告白があり、そして付き合う者たちがいた。  あの人は付き合ってる。この人は付き合ってない。  一緒ではないこと、みんなと違いだしたという現実は、確かに私を荒ませた。 「ミカは居ないの? 好きな人」  シホに問われ、はぐらかそうとしたのだけれど、 「ねぇ、居るんでしょ? 教えてくれなきゃ絶交」  絶交、の響きで私は怯んだ。 「ユ、ユウヤ、くん」 「うっそ、まじ? 高橋?」 「え、ユウヤのこと、タカコちゃんも好きって言ってなかったっけ?」  スマホに夢中だったはずのナギサが、急に話に入ってきた。 「ちょっと、ミカ! 早く告らないと、誰かに取られちゃうよ?」 「で、でも……」 「あぁ、もう! 好きなんだったら告っちゃいなよ! もう卒業じゃん⁉︎」  もう、と言うには少し早かった。  この時まだ、年を越していなかったのだから。
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