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 終業式の日、「しばらく会わなくなるんだから、ほら!」と背中を押されて、セッティングされていた告白をした。  シホとナギサが勝手に呼び出していたのだ。ユウヤくんを。  中庭のベンチとかいう、見ようとすれば見放題の場所に。  冬になれば葉が落ちて裸になる木は、夏ならば姿を隠してくれるだろうけれど、今は顔を覆うようにした手の指の隙間からこっそりと見るように、枝はすべてを隠さず、誰かへ現場の情報を開示する。 「あの、えっと……」 「ん? なに? ミカ」  ユウヤくんは、モジモジしている私に、逃げ出したくなるほどに柔らかくあたたかい笑顔を見せてくれた。  あまりに〈言葉を受け止める気があります〉という顔をされると、余計に言いにくい。  相手に聞く気がなければ、用件に「嘘です、罰ゲームです」とかいう迷惑な言葉を添えて逃げられるだろうに。 「あの、その……私、ユウヤくんのことが」  かくん、と頭が傾いた。なぁに? と言葉を求めるように。 「す、好きです。付き合ってく、くだ、くれませんか?」  絞り出すようにそう言うと、気まずい間が降りてきた。  まるで、ヘリコプターから突き落とされたような気分。  ヘリコプターに乗ったことがない私だけれど、でも、確かにそんな気分。  絶対安心、というわけではないけれど、ある程度命の保証がある場から、ドン、と空へと投げ出された気分。  パラシュートを装備しているかは分からない。仮に知らない間にそれを身につけていたとして、私はそれの使い方を知らない。 「俺は、さぁ」 「す、好きです。付き合ってく、くれませんか?」 「ミカ……」 「付き合って、くれません、か?」  好き、と伝えてしまったら、後に引けなくなってしまった。嘘をついて逃げるという手を、使える雰囲気ではなかったし、本当に好きだからこそ、使いたくなかった。  気のない相手には嘘なんて朝飯前だ。けれど、気のある相手に嘘をつきたくない。そう心が叫んでいた。  今、嘘をついてしまったら。  何もいいことは起こらないし、後悔ばかりが膨らむ気がした。 「ごめん。俺、別に好きな人がいるとかじゃないんだけど」 「……え?」 「ミカはロボットみたいだなって思うんだよ。うん。俺はもっと、あったかい人が好き。だから、ごめん」
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