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 裸の木は、全てを晒していた。だから、シホもナギサも、全部全部知っていた。  ふたりは私を見かけ上慰めてくれた。  私はそんな〝慰めたという実績づくり〟を手伝った。  ふたりして、私を抱きしめ頭を撫でてくれる。そのあたたかさの中で、私は泣いた。  心はすごく、落ち着いていた。  確かにショックではあったけれど、彼が彼氏にならなかったことに、安堵していた。  彼を私が手に入れてしまえば、私は平穏な学校生活を送れないだろうと思っていたから。タカコに顔向けできないと、思っていたから。  卒業式が終わると、皆で泣いて笑って写真を撮った。  ふと、中庭に目をやると、桜が綺麗に咲いていた。 「今年は卒業式の時に咲いちゃったね」 「ほんと。嬉しいっちゃ嬉しいけどさ、桜って、入学式の時に咲いてほしい気がする」 「確かに」  別れを惜しみ、盛り上がる中、訪れた冷却時間。  これ以上はしゃぎ続けたら倒れてしまいそう。そんな、脳や体の本能が、私たちを廊下の窓辺へ誘ったのだ。 「あ、誰だろう」 「なになに?」  シホが誰かを見つけて、ナギサが一緒に、それが誰か知ろうと目を凝らした。  私は、半歩後ろから、関心薄くそれを見た。  そのまま、その光景に私は撃たれた。 「タカコ、だよね?」 「うん。桜のせいで顔見えないけど。でも、タカコだよ。あのポーチ、タカコのだもん」  胸から下だけが見えるセーラー服の人は、くたびれた手作りのポーチを持っていた。  みんなが既製品を使う中、一人だけ手作りのタカコ。  少し歪な形をしていて、酷くくたびれているからと、既製品を買えない可哀想な人というレッテルを貼られているタカコ。  ユウヤくんの事が好きなタカコ。 「もう一人は? あの、学ラン」  ねぇ、シホ、ナギサ。知ってる? ユウヤくんのズボンね、後ろが少し、擦り切れているんだよ?  バザーで買った誰かのお古だからかなぁ、擦り切れているんだよ。  私はインプットしてある記憶のピースを、丁寧に取り出していった。  頭の中で、パチ、パチとピースを繋げていく。 「あ、あのふたり、手ぇ繋いだ!」 「やば、タカコ泣いてない?」 「待って、男がタカコのこと抱きしめたけど!」 「ねぇ、あの学ラン、誰?」  まだ、気づいていないの? 本当に、あの学ランがユウヤくんだと気づいていないの?  私は、一瞬にしてシホもナギサも信じられなくなった。  このふたりは、私を地に落とすためにこうして告白現場を見せているのではないか。そんな勘ぐりが渦巻いた。  はしゃぎすぎたから、クールダウンのために廊下に出たはずだった。  それなのに、頭は熱暴走を起こしていた。  みんな同じ。それでいいはずじゃん。  もう、卒業だから、同じじゃなくて良くなったんだっけ?  ことを理解したシホとナギサの目は、それはそれは苦かった。  コーヒーを飲んでもこんな目にはならない。  センブリ茶? 飲んだことないからそんなデータ、私にはないけど。
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