第1章

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 うらやましいな、と今の自分の状況も忘れて朝海は思った。  そうやって連れて来てもらう女性は、当然ながら恋人だろう。こんな人の恋人でいるのは、いったいどれだけ誇らしい気分になるものなのか。  そう考えて、はっと我に返る。 「あ、あのすみません、この服とかバッグとか」 「ああ、気にしなくていいです。お詫びの気持ちだと思って受け取ってください」 「そんなわけにはいきません! 靴だけでしたらともかく」 「いいんですよ。僕がそうしたかったんですから」  男性は屈託ない笑顔だが、朝海はとてもそんな、呑気な気分にはなれない。 「で、でも」 「まだ何か?」 「その、……彼女さんとか、奥さんが知ったら、不快に思われるんじゃ」  朝海の問いに、男性は意外なことを言われたというように目を丸くする。それから、あろうことか、くすくすと笑い始めた。  こっちは本気で心配しているというのに。朝海が思わずむっとすると、男性は笑いの隙間から「すみません」と謝ってきた。 「心配してくださったんですか、そんなこと」 「そんなことって」 「お詫びの気持ちだと言ったでしょう。それに、彼女さんとか奥さんとか、今はいませんから」  だからお気になさらず、と男性はむしろ飄々とした口調で言う。  それでも、こんな高価な一式を受け取ることには、ためらいがある。どう考えたって、朝海が着ていたワンピースや靴などの、それぞれ倍はするに違いないのだ。  朝海の躊躇を見て取ってか、男性が「ふむ」と少し考えるような仕草を見せた。 「納得できませんか? それじゃあ、今日一日、僕に付き合ってください」 「……はい?」  あまりに予想外の発言に、朝海は間の抜けた声での返答をしてしまう。 「失礼ですけど、あなた京都に慣れてらっしゃらないんじゃないですか」 「えっ」 「歩いてる姿で、なんとなくそう思いまして」  ということは、ふらふらと歩いているのを遠目で見られていたのか。急に恥ずかしくなる。 「せっかく来られたのに、ろくに見物もしないで帰られるのはもったいないですよ。今はいい季節ですし。今日は雨も降らないみたいですから、京都案内させてください」 「え、えっ」  話の展開が早すぎてついていけない。何と言おうか迷って、朝海が口から出した言葉は。 「……地元の、方なんですか」 「いや、僕は東京です。でも京都は仕事でよく来るし、合間の時間であちこち行ってますから」
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