3986人が本棚に入れています
本棚に追加
朝海はその夜と翌日の二晩、入院した。
顔の腫れは処置が早かったため案外すぐに引いたし、鼻血も救急車が来る頃には止まっていた。だが、壁に頭を打ち付けられたり、地面に倒されて身体を打ったりしていたので、念のための詳しい検査がおこなわれたのだ。結果、異常はないということで、事件の二日後の昼には聡志のマンションに戻った。
聡志は入院した晩はずっと付き添っていたが、翌朝はさすがに仕事だと言っていったん出ていった。だが夜にはまた来て、面会時間が終わるまでずっと病室にいた。
今日は、まだ彼の顔を見ていない。
時計は午後三時過ぎを差している。どれだけ早くとも、聡志の仕事が終わって帰宅するのは夜七時を過ぎるだろう。この半月、それより早い時間に帰ってきたことはないから。
それまでに、と思って朝海は、荷物をまとめ始めた。騒動は終わったはずだし、いつまでも出張を引き延ばすわけにはいかない。家から持って来た物に加えて、東京に来てから買い足した、消耗品や下着などをカバンに詰めていく。
そうして予想通り、夜七時過ぎに、部屋の玄関扉が開いた。
「ただいま。朝海、いるかい?」
「お帰りなさい」
「……ああ、元気そうだね。よかった」
心底から安堵したようにそう言って、聡志は朝海をぎゅっと抱きしめる。
「ごはんの用意できてるけど、お風呂とどっちを先にする?」
「うーん、そうだな、先にメシにしようか」
「わかった。すぐ並べるね」
リビングダイニングで向かい合って座り、朝海の用意した夕食をそろって食べる。
その後、交代で入浴し、朝海が上がった頃には九時半になっていた。
リビングエリアのソファに座っていた聡志が、朝海を手招きする。応じて朝海は、彼の隣に腰を下ろした。
「このたびはご迷惑をおかけしました」
前置きなく朝海が頭を下げると、不意をつかれた聡志が息を呑む気配がした。
「何言ってるんだ、朝海は何も悪いことしてないだろ」
「でも、聡志さんに迷惑をかけたのは変わりないから」
重ねて言う朝海の頑なさに、聡志はため息をつく。
「だから、迷惑なんかじゃない。恋人として当然のこと、大事な彼女を守っただけだから」
「聞いてもいい?」
「何でもどうぞ」
「一昨日の夜、ここにりゅうい……緑川さんが来たのはどうして?」
「ああ。僕が会いに行ったからだよ」
驚いて説明を求めると、聡志は話をこんなふうに続けた。
最初のコメントを投稿しよう!