第4章

11/13
前へ
/56ページ
次へ
 朝海に手紙が届いた件については、弁護士を通じてあちら側に探りを入れていた。それは朝海も聞いていた話だから知っている。  同時に筆跡鑑定もおこなっており、朝海に届いた手紙の文面と、和解の際に紗和子が署名した名前の筆跡に、共通する特徴があることが数日前に判明したという。  それをもとに、弁護士が紗和子に事実確認をするため彼女の家に連絡を取ったところ、しばらく前から姿が見えないと対応した家族に言われたそうだ。紗和子に最近おかしな行動がなかったか尋ねると、『そういえばここ一ヵ月ほど、しょっちゅう手紙を書いては出しに行っていた。誰宛てなのか聞いても言わなかった』とのこと。さらには、紗和子の家が懇意にしている興信所と連絡を取っている様子もあった、と聞かされたらしい。  弁護士からの連絡でそれらを知り、聡志は京都に向かった。婚約者の不始末を、今回の元凶に片付けさせるために。 「当初はずいぶんと渋っていたけどね。騒ぎを起こされて困るのはむしろそちらの家ではないんですか、と言ったら、面白いぐらいに慌てていたよ」  そして、龍一を連れて東京に戻ってきた夕方、朝海がすでに退社したことを知った。慌ててマンションに帰ってきたところで、騒ぎに遭遇したという次第だった。 「君がひどい目に遭う前に間に合わなくて、すまなかった」 「そんな。聡志さんが謝るようなことは、何も」  それで、と朝海は別のことを問う。 「紗和子さんは、あれからどうなったんですか」 「立派な傷害事件の加害者だからね。警察に連絡して、連れて行ってもらったよ」  紗和子は一晩、龍一とともに事情聴取を受け、その後正式に逮捕という形になった。しかし本人が精神的に不安定という理由で、朝海が運ばれたのとは別の病院に現在も入院中だという。  起訴の手続きが取られているらしいが、事件背景や関係者の心情などを考慮して、おそらくは不起訴になるだろうというのが、弁護士の見立てだった。 「僕としては、もっと厳しい処置をしてやりたいところだけど、裁判になると君も被害者として出廷しなければいけないからね。これ以上あの二人に関わらせたくないから、あきらめたよ」  ふう、とそこで聡志は一度、息をつく。 「あの男、こっちに向かう飛行機の中で僕に言ってたよ。紗和子は今回のことでひどく不安定になってるからしばらく療養させるつもりです、だってさ。自分のせいでそうなったのを、たいして悪いと思ってない口ぶりだったな」  一発殴ってやりたかったよ、と聡志は息巻く。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3986人が本棚に入れています
本棚に追加