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「この男が朝海をとことんないがしろにしたかと思うと、怒りを抑えるのが難しかったな。僕が事件を起こして騒ぎになったら本末転倒だし、君を悲しませたくなかったから我慢したけど」
「聡志さん……」
「ともかくこれで、君を悩ませてた件は本当に終わったんだ。安心できた?」
「そう、ね」
「ならやっと、心置きなく同棲生活ができるよね」
「そのことだけど」
「ん?」
「私、近々大阪に戻ろうと思ってるの」
「……え?」
ぽかんとした聡志に、朝海は説明した。
「ほら、事件も解決したし、いつまでもこっちで仕事してるわけにはいかないでしょ。私は『オフィスLa Belle』に籍のある人間だし。ホテルの視察とか、聞き取りはだいたい終わったし、まとめができたら戻らなくちゃ」
「ち、ちょっと待って」
焦った声で聡志が、朝海の話をさえぎる。
「僕との同棲も解消ってこと?」
「同居でしょ。そもそも、それが第一目的じゃなかったんだし。身の危険がなくなって大阪の家に戻っても大丈夫になったら、ここにいる理由は」
「僕が朝海に一緒にいてほしいと思う、それは理由にならないのか?」
「気持ちは嬉しいけど、仕事もあるし」
朝海の頑なな物言いに、聡志はまたため息をついた。顎をつまんで何事か考えている。
「わかった、ちょっと待って」
言い置いて、聡志はリビングダイニングを出ていく。何分もしないうちに戻ってきた彼は、小さな紙袋を手にしていた。
再び隣に座った聡志は、紙袋から小さな箱を取り出した。黒の、ベロア調の小箱──ドラマや漫画で見たことがある外観。朝海の心臓が急激に速く脈打つ。
箱を左手に持った聡志は、右手で朝海に向かって箱の蓋を開いた。
果たして、中身は指輪だった。中央に大きなダイヤモンドが付いている。
「本当は、クリスマスに言おうと思ってたけど……結婚してほしい」
「…………」
「朝海が、あの女に殴られてるのを見た時、本当に血の気が引いた。何であの時抵抗しなかったの」
「ちょっと、同情しちゃって」
「同情?」
「あの人が、どれだけ緑川さんを好きで悩んだのかと思ったら、ちょっと可哀そうに感じたから……頭と体が痛くて、うまく動けないのもあったけど」
朝海が説明すると、聡志は呆れたように「朝海は優しすぎる」と評した。
「そういうところも好きだけどさ……もっと自分のことを大事にしてくれ」
「ごめんなさい」
「とにかく、いつまた予想外のことがあるかわからない、失ってから後悔しても遅いと思ったら、君を早く自分のものにしなきゃいけないって感じた」
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