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星の架け橋
「会えて、良かった。よく、訪ねてくれたね」
桜咲く河川敷の遊歩道。僕は、隣の青年を見上げると微笑んだ。
「ハイ。ドウシテモ、アナタニ会イタカッタノデス」
僕は、もう老体だ。地球人に比べると、ルーの寿命は長いそうだが……僕の両親が鬼籍に入ったように、ルー・ステラの両親も彼の星で生を全うしたそうだ。
「今度は、君が命を繋ぐんだね」
「ハイ。実ハ、彼ハ、既ニ相手ヲ見ツケテクレマシタ」
「それじゃあ、もう……?」
「明日、役目ヲ果タシニ還リマス」
青年は腹部に手を当て、唇を綻ばせた。
「ステラ、覚えていてくれ。この花は、桜というんだ」
「アア、コレガ……!」
僕の母は、「その日」のことを繰り返し話してくれた。
ルー・メテルデの同化を受け入れた母・美桜は、ルー・ガイウスと同化していた父・洋平と結ばれた。深く愛し合い、それぞれのペアが子どもを授かった。地球人とルーが同時に妊娠する――こんなことは、長いルーの歴史でも珍しいことだという。
「コレガ、桜。美シイ……」
僕達は並んで、うっとりと桃色の霞を見上げる。その向こうの空、彼方の宇宙、遥か遠いルーの母星に想いを馳せる。
僕が灰になり、ステラも銀の粒子に霧散しても、地球がある限り、命は繋がっていく。それは素晴らしいことに違いない。
浸った宵の蒼を吸い上げるようにして暮れていく春の空。そこに金の糸が一筋、架け橋みたいに流れて消えた。
【了】
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