2人が本棚に入れています
本棚に追加
放課後、西昇降口の裏、椿下さんはあんな誰から届いたかわからない手紙の内容を律儀に守り、昇降口の裏庭に立っていた。
黒い、肩まで伸びた髪を揺らして、そこに凛と立っていた。
「椿下さん。」
声に反応して顔を上げた椿下さんは、俺の顔を見つめると「誰?」という困ったような反応をした。そりゃそうだ。学年は同じもののクラスは違う、というか一度も同じになったことはない。
「すごくいきなりで悪いんだけど、4月に入ってからずっと一目惚れしていました!付き合ってください!」
頭を下げて右手を差し出した。
と同時に右の肩に下げていた通学用の鞄がずり落ちて、鞄のポケットに入っていた湯豆腐のマスコットキャラクター「ゆーどうふくん」のキーチェーンがぽとりと落ちた。
「あ‥。」
「付き合ってください。」
「ごめんなさい。」
で終わるはずだった罰ゲームに水を差した「ゆーどうふくん」
ゆーどーふくんは各地にあるご当地キャラの中でもかなり地味めなキャラクターで、知っている人は少ない。それでもゆーどーふくんの直ぐに崩れてしまう角のなさや、豆腐で白で地味だけど、その色に無限の可能性を感じるところとか、俺は好きだった。もちろんそれを周りに公言するつもりはなかった。自分には合っていないと思っていたからだ。だから鞄の外にはつけず、外側のポケットに隠していたのに・・・。
「ゆーどーふくん。」
と先に反応したのは、椿下さんの方だった。
「え・・。」
「こんなマイナーなキャラクター、みんな知らないと思ってた。しかもこのキーチェーン見たことないし、ゆーどうふくんが豆腐売ってるなんて、レアなの!?どこでゲットしたの!!!???」
目を輝かすという言葉は今の椿下さんのためにある言葉なのかも知れない。
「付き合ってください!」
「えーーーーーーーーーーーー!?」
今度頭を下げたのは椿下さんだった。
この人、大丈夫か‥。でも人生普通街道まっしぐらな俺が選ぶ選択肢は一つしかなかった。
「お願いします。」
俺は両手で椿下さんの両手を握った。
最初のコメントを投稿しよう!