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あざといorあざとくない
一度一緒に帰るようになってから、お互いの予定が合えば、自然と一緒に帰ることが多くなった。一緒に帰るようになってからは、いろいろなことをしゃべるようになった。
土日、何してるのとか、お互いの趣味とか、何でゆーどーふ君を好きになったのか、とか。
椿下さんが意外にインドア派ってこと、読書が好きっていうこと、たまたま家族の旅行の途中で寄ったパーキングエリアでゆーどーふ君のキャラクターを見かけて、そこからずっとゆーどーふ君を好きということ。
「じゃあ、また明日。」
帰り道、いつもそう言い出すのが寂しかった。学校ではクラスも違うし、なかなか椿下さんに会いに行く勇気がなかった。未だに椿下さんと付き合っていることに自信がなく、周りの冷やかしも気になった。俺はいいとしても、椿下さんには嫌な思いをさせたくなかった。
今日は近くの公園にでも寄っていこう。天気もいいし、まだ時間も早い。もっと椿下さんと色んな話がしたい。
「椿下さん、公園でも寄って行こうよ。」
「あ、うん。」
椿下さんが嬉しそうに笑った。
帰り道からそんなに逸れなくても近くに公園がある。ブランコと滑り台と、砂場しかないという小さな公園だが、2人で時間を過ごすのにはもってこいだった。何よりこじんまりしているので静かでいい。
「高橋くん。」
「椿下さん。」
これが今の2人の呼び名だった。早く椿下さんと仲良くなりたい。彼氏彼女といっても、まだ中身のない彼氏と彼女の付き合いだと思っている。好きになって付き合うまでの大切な過程を、ひょんな事から飛ばしてしまった。少しずつ中身を2人で埋めていきたい。
椿下さんはどう思っているんだろう。
「椿下さん、道路の方危ないから歩道の方入りなよ。」
自転車が向かいから来たのをみて、椿下さんの手を握って引っ張り、俺が車道側に立つ。自転車が通り過ぎるのを見ると、つい椿下さんの手を握ってしまったことに気が付き、ぱっと手を離す。
「あ、ごめんっ。」
付き合っているのだから手くらい繋げばいいのに。俺の小心者加減に内心ガックリする。俺のバカ・・・・・・。
「高橋くん。」
椿下さんが俺の名前を呼んだ。
「私もっと、高橋くんと手を繋いでたいよ。」
離れた手を椿下さんが繋ぎ直してきた。ただでさえ暑くなってきた梅雨明けの7月。
オレは心に汗をかきながら、せめて手に汗をかかないでくれと神様に祈った。
椿下さん。
あざといのかあざとくないのか。
どっちかは分からないけれど、今は手に入れたラッキーを心から喜んでおこう。
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