第一章 裏の顔

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第一章 裏の顔

「ハァッ…ハァッ…ハァッ…」 寒い雪道を走る騎士。深い傷を負いながらも必死に逃げるが急ぎすぎたせいで気づかなかった木の根につまずいて転んでしまう。 「うわっ!いってぇ…ハッ!逃げなきゃ…!」 再び立ち上がり走り出す。 「なんで…なんでよりによって俺1人のときにアイツに会うんだ…!!!」 彼が走り出す数十分前。彼は自分が所属する隊とはぐれ、1人歩いていた。 「くっそ…みんなどこ行っちまったんだよ。」 自分が勝手にはぐれただけで彼以外の隊員は全く悪くないのだがそれを指摘する者は誰もいない。 不安そうに歩いていると小さく声が聞こえた気がした。 「ん?あっちからか?」 声がした方に歩いていく。もしかしたら合流できるかもという期待を乗せた足取りは軽い。 声がどんどん大きくなっていくにつれそれは剣と剣がぶつかる音だと分かった。 1人の騎士と数人の騎士が対峙している。1人の騎士の顔はちょうど死角で見えない。数人の騎士の方は1人の騎士を倒すので精一杯なようだ。こちらには全く気づいていない。だがよくよく数人の騎士の顔を見るとなんと同僚たちであることに気づいた。 しかしおかしい。男が所属している隊には男含め24人の隊員と1人の隊長がいるはずである。目の前にはどう見ても25人もいない。そこでようやく気づいた。 地面に多くの死体が転がっていることに。 「うわぁ!な、なんだこれ…」 見覚えのある顔ぶれだ。いつもと違うのは顔に恐怖を塗ったようになっているところだろうか。 「コアンド…カルザン…隊長まで…!?」 「アリフ?おまえアリフか!早くこいつを倒すぞ!死んだやつはみんなこいつにやられたんだ!」 声がした方を向くと同僚がこちらに向かって叫んでいた。 「あぁ!今行く!」 同僚の方に向かおうとしたその時、同僚の腹に剣が刺さるのが見えた。 「ぐ、グゥ…クッ…ッ…」 「だ、大丈夫か!?」 駆け寄ろうとしたが足が震えて動かない。本能が敵がいる方に行くのを拒んでいるのだ。いや、敵と言うよりは絶対に戦わない方がいい相手と言った方がいいだろうか。
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