第一章 裏の顔

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次の日、ピクニックに来たリードとカイトは森の中を歩いていた。 もし雨になったらカイトをどう慰めようか考えていたが杞憂に終わったようだ。 「あ、お兄ちゃん!ブルーベリーがあるよ!あっちには薬草もある!」 「ほんとだ。ここにはたくさん植物が生えてるな。」 カイトが言った通り、そこにはブルーベリーが群生していて痛み止めや止血に使う薬草が山ほど生えていた。 「これだけあったらまた戦争があったときもふんだんに使えそうだな。」 「怪我しないのが1番なんだけどね!」 頬を膨らませてカイトが怒る。 「まだ引きずってるのか?」 「お兄ちゃんがたくさん怪我してくるからだもん…」 カイトの顔が暗くなる。戦って金を稼がないと暮らすことができないのはカイトもわかっている。だが唯一の肉親に命を落とす可能性のある危険な仕事はしてほしくないのだ。 命は落とさなくても大怪我をしている姿だって見たくない。 「お兄ちゃん…いなくならないでね…」 「…うん。大丈夫だよ」 果物や薬草を必要な分だけ取り、少しひらけたところでローラに作ってもらったお弁当を食べた。 美味しいねと笑い合って食べたがどこかぎこちない空気がただよっていたのは言うまでもなかった。 数ヶ月後、他国の援助を受けたダジリア国はまたしてもハングランド国に宣戦布告していた。 「ダジリア国ってなんでこんなに血気盛んなのかしらね。」 「お兄ちゃんまた行っちゃうの…?」 「ごめんなカイト。ちゃんと帰ってくるから。」 リードはまだいい方である。リードは普通の騎士よりはるかに剣の腕が立つので生きて帰って来れる可能性が高い。だが普通の騎士は骨や遺品だけになって帰ってきてもおかしくないのだ。リードとカイトの父親も同じ理由で亡くなった。 「しかも前回より敵の騎士の数が増えたんでしょ?無理して大怪我しないでね。」 「うん、ハングランド国もダジリア国に合わせて他国と同盟を組んだらしいから多分前の戦争とそこまで変わらないと思うよ。」 「そう、よかったわ…」 ローラはまだ不安そうだ。いくらリードが強くても不安は拭いきれない。 「じゃあ行ってくるね。」 「お兄ちゃん!ちょっと待ってて!」 「えぇ?」 カイトが家へ走っていく。しばらくすると何か手に持って帰ってきた。カイトが手を広げて中身を見せる。 そこには無地の赤い布でできて表面には「むびょうそくさい」と書かれた布袋があった。 「これは…お守り?」 「そう!作ったの!これポケットにずっと入れてたら絶対帰ってこれるから!」 あのピクニックの日の後、実はカイトは自分の部屋に閉じこもってお守りを作っていたのだ。それをたまたま知ったローラも途中から制作に加わり何回か失敗もして昨日ようやく完成したのだ。 「ありがとうカイト。持っていくね。」 「えへへ…どういたしまして」 「あ、そろそろ行かないと。」 少し涙目になりながらもカイトが叫ぶ。 「ぜぇったい帰ってきてね!」 「うん。わかった」 リードは微笑むと村の出口へ走っていった。 「う…うぅ…うええぇぇん…」 リードの姿が見えなくなったと思ったら急に胸に寂しさが広がってどうしようもなく悲しくなり、カイトは泣き出した。 そんなカイトをローラは力強く抱きしめた。
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