第二章 非日常の始まり

3/5
前へ
/10ページ
次へ
「…ッ!?」 背後から誰かの強い視線を感じた。頭を射抜かれるかのような感覚にリードは思わず後ろを振り返った。視線の主を目で追いつつ目の前の敵も倒しつつと両方の事に対して注意が疎かになったことにより、普段なら気づくすぐそばにある危険に気づかなかった、 「ガッ…!」 背の一点に強い衝撃を感じそこからじわじわと痛みが広がっていくのが分かった。 「ブラッディ・リードを捕まえろ!手負だが油断するな!」 木の上からダジリア国の兵達に指示を出す。 結局リードを捕まえられなかったセルベル王は戦場にリードは絶対来るはずだと思い、他国からの援助でもらった弓を使って遠くからリードを射ったのだ。 大怪我を負ったリードなら逃げられずに捕まえられるだろうと考えたのだ。 (一度後方に逃げたいけれど…他の兵士が邪魔だ…) 逃げられないと判断したリードは背中の痛みに耐えながら剣を握る。 (とりあえず人数を減らそう。俺が手負いだから相手は油断しているはずだ。) 真っ先に襲いかかってきたやつの剣を避け、首に剣の持ち手の部分をぶつける。剣を奪い取り両手に剣を持つ。人数と体の状態で不利なのだから武器ぐらいは有利でないと無茶な戦いになってしまう。 今度は2人同時に襲いかかってきた。1人では勝ち目がないと今の戦いで思ったのだろう。 強く2人を睨みつけると肩をビクッとふるわせて少し後ろに下がった。いくら傷を負っているとはいえ誰もが知っているほどの剣の腕がたつ相手を前にして平常心ではいられない。 オロオロと狼狽えている状態の2人には隙がありすぎて逆にいつ切り込めばいいかわからなくなりそうな程だった。 2つの武器をクロスにして構えて敵兵に突っ込む。突然のことにさらに狼狽えて慌てて剣を構え直していたがその間にもう腹に剣が刺さっていた。 この流れを5分ほど繰り返していたその時リードは強い喉の渇きを感じた。 その異常に気づいた瞬間どんどん自分の体がおかしくなっていくのが分かった。 発汗、めまい、脈が早くなる、 (これは…大量出血の症状だ。) 目の前の敵兵の輪郭がぼやけて見える。何かしないといけないのに息切れとめまいのせいで何も考えられない。頭痛がする。頭がクラクラして意識が飛びそうになる。 その時、首に熱いタオルを巻かれるような感覚がした。隙をみて敵兵がリードの首を布で絞めたのだ。飛びかけていた意識は完全に沈黙した。 「リード隊長!」 そう呼びかけるタリヤの声はもうリードに届いていない。戦っているリードの近くにいたら邪魔になることを案じて少し距離を置いていた味方兵たちはリードがやられたことに気づき敵兵に近づいて取り返そうとするが、他の敵兵に塞がれ助けることができない。 地面に倒れたリードを敵兵が運んで少し遠くに止めておいた荷台に乗せる。 「全軍撤退!」 ポケットに入れてあった手錠を取り出しガチャリとリードの手首につけたとき、見計らったように敵兵の隊長が叫びその途端敵兵はぐんぐんと自分たちの国の方向へ帰って行った。 敵兵の足音が風の音と紛れてきた頃には先程までの戦闘が嘘だったかのように辺りは静かになりそんな中リードが連れ去られたことをやっと自覚した隊長は急いで軍を待機場所まで連れ戻し、タリヤと他数人の兵を連れてハングランド城へ向かいジートス王にリードのことを報告した。 報告を聞いたジートス王はリードを助け出すためハングランド国の軍師や学者。さらには城の構造に詳しい大工職まで呼び、なんとか案を捻り出そうとしたが相手も大きな国家であり容易に手出しはできないことを理由に幾度と行われる話し合いでも進度は順調とは言えなかった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加