第二章 非日常の始まり

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「え!?お兄ちゃん連れていかれちゃったの…?」 「そ、そうなんだけど…絶対に助けるから!大丈夫だよ!」 そうカイトを励ますのはタリヤだ。内心リードが連れ去られたことでタリヤも焦っている。それがどうしても言葉の端々や挙動に出てしまうのでカイトは不安そうだ。 「きっと大丈夫よカイト。約束したでしょ?絶対に帰ってくるわ。」 カイトを安心させるようローラは優しく微笑んだ。 「うん…」 「さ、家に戻りなさい。後で一緒にクッキーを作りましょう。」 カイトがいなくなったところで、ローラはタリヤにリードが連れ去られた詳しい経緯を聞いた。 「ハングランド国からダジリア国にリード隊長を返すように手紙を送ってはいるのですが、未だ返信が来ていないようで…」 「そうなのね…」 「ハァ…ダジリア城に突撃できたら良いんですけどね。」 ダジリア国とハングランド国は真反対の方角に位置しており、互いの国に行くだけでかなりの労力と食料と寝床がいるのだ。 だからどこの国も2つの国の間の土地に国民たちを住まわせたり、畑を作ったりしないのだ。戦争時には草木が灰となり、鳥は帰る巣を失くし、人の命が多く散る惨い戦場となる。 「じゃあそろそろ家に戻るわ。また何か進展があったら教えてちょうだい。」 「わかりました!一刻でも早くリード隊長をお救いできるよう尽力いたします!」 「ありがとう。カイトにも伝えておくわ。」 ローラは家に戻ってカイトを必死に慰め、タリヤはハングランド城へ隊長に報告をしに行った。戦争時は、兵たちは城の臨時の寮に泊まりつつ敵が来たらすぐに応戦できるようにしている。 しかしハングランド国を支える騎士の中でも頭一つ抜ける実力を持つリードがいなくなったことによって、途端に騎士たちのバランスも崩れはじめていた。 「強くなる」という漠然とした目標より「あの人のようになりたい」というはっきりと区切れの分かりやすい目標の方が、人は努力しやすい。 騎士たちの目標であり憧れであったリードが連れ去られたことで、騎士団全体が言いようのない不安に包まれていた。
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