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頭痛と胃の不快感で目が覚めた。
お酒は弱くはなかったはずだが、30歳を過ぎた頃からお酒の量に関係なく、飲んだ日の翌日は決まって頭痛がする。
そして、今日は特にひどい。
ベッドから重怠い体をようやく起こして、冷蔵庫のミネラルウォーターをがぶ飲みした。
キンキンに冷えた水によって頭痛がさらに増して、またベッドへと倒れこむ。
記憶はぼんやりとしているが全て残っている。
どうせなら、記憶なくなっていたらよかったのに…
「最悪…」
私は小さく呟いて、愛用の羽毛の枕を顔に押し当ててから、再び「最悪!」と大きな声で喚いた。
それと同時に、ズキンとこめかみに脈打つような痛みが走って、ひどく後悔する。それでも、そのズキズキと痛む頭の中で、昨夜の出来事を反芻してしまう。
あの時、私が弱々しくつかんだ袖はそっと優しく振りほどかれて「俺、結婚するんだ」と告げられた。
テーブルの下での私たちのそんなやり取りを知らない利恵と武史は、その先輩の一言から、無邪気に先輩と婚約者は3年の付き合いだとか、婚約者は先輩より1つ年上だとか、家庭的で綺麗な人だとか、挙式は半年後だとか…聞いてもいない情報を話し出す。
「その辺で。」と先輩が止めて、「なんだよ、照れんなよ。」と、武史が口をとがらせていた。
私は、どんな顔をしていただろう。
ちゃんと繕えていただろうか。
私は、何を望んだのだろう。
何を期待したのだろう。
10年という年月を駆け抜けて、取り残されたあの日の私が、ほんの少し出した勇気。
昨日のあれは、10年前の私だった。
しまい込んであった思い出の宝箱から、キラキラと零れ落ちる記憶の欠片。
それが眩しくて、また欲しくなって、ついうっかり手を伸ばしてしまった。
でも、それはうまくつかむことは出来ずに、スルスルと指の間からも零れ落ちていく。
どうして、再会してしまったの。
会いたくなかった。
会いたくなかった。
こんな気持ちになるのなら。
鼻の奥がツンとなり、目頭が熱くなる。
会いたかった。
会いたかった。
本当はずっと、ずっと…
会いたかったんだ。
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