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先輩とLineで繋がってから、時々どうでもよいようなくだけた内容のメッセージがきたりするようになった。だから私も、どうでもいいような面白スタンプで返事をしたりする。 まだ仕事に復帰できず、暇なのだろう。 次の私の休みの日に会うことになった。 あれから、一樹はシフトが夜勤になり、私は日勤のため連絡をとっていない。 私はまだ混乱していた。 一樹は同志で、親友で、恋愛の対象として見たことがなかった。 こんなに近くにいて、一樹の気持ちに気づかないなんて私は馬鹿なの? いや、一樹がバレないように押し殺していたんだ…あのプロポーズだって、本気だったんだ… 先輩との約束を翌日に控えた日の仕事終わりに、更衣室で利恵と鉢合わせた。 「ね、聞いた?」 私の顔を見るなり、利恵がものすごい剣幕で話しかけてきた。 一樹から何か聞いたのか、はたまた先輩の事か、利恵は何をどこまで知ってるのか、私は利恵の顔を見て緊張した。 「え?」 「一樹のことよ…」 私は何をどう答えて良いのか、ここで言うべきなのか返答に困っていると、利恵は続けて話し始めた。 「異動の話、沖縄に異動になるって…」 「えっ!?」 全く予想していなかった内容に、頭がついていかない。 「えー?!聞いてないの?来月って話だよ?提携の病院新設する話しあったでしょ?それで声かかったみたいだね…」 どういうこと? いつから決まっていたの? 何で言ってくれなかったの? 一樹が遠くに行っちゃう!? 「利恵ごめん、ありがと」 何か言いたげな利恵を残して、私は急いで一樹の部屋へと向かった。 今日は確か夜勤明けのはず… あまりにも慌てていたため、エントランスの階段の最後の一段で躓いて転んでしまった。 手のひらと膝に血が滲む。 痛い… 涙で視界がぼやける。 私は一樹の部屋のドアフォンを鳴らしてから直ぐにドンドンとドアを叩いた。 反応がない。 それでもしつこくドアを叩くと「うるせぇ…近所迷惑だ…」と言って寝起きの一樹が出てきた。いつもの一樹だ。 私は玄関に押し入り、座り込んで泣いた。 「何で…異動のこと…言ってくれなかったの…」 一樹は黙ったまま部屋からティッシュの箱を持ってきて、三枚ほど出して私の顔に押し当てた。 ずるい事はわかっている。 困らすだけなのも。 だけど、言わずにはいられない。 「嫌だ…嫌だよ…」 一樹は私を見下ろして、黙って動かない。 そして、少し声を荒げて話しだした。 「そりゃ、俺だって行きたくないよ。行ったこともない沖縄の新設の病院なんて、不安しかないし。知ってるやつ誰もいないし…」 私は一樹に言われてハッとした。 私は本当に馬鹿だ。 感情に流されて、一樹の気持ちも考えずに… 本当に成長していない。 「そうだよね…ごめん…ごめんなさい…」 一樹は私を抱き起こして立ち上がらせると「今日は帰って…」と、静かに言った。それと同時に、私の手のひらと膝の擦り傷に気づいたのか、目を見開いた。だか、直ぐに唇をかみしめてから「…帰れ」と玄関のドアを開けて、私の背中を優しく押して追い出した。 私は最低だ。 一樹の優しさに甘えて、一樹がどんな思いでいたかまるでわかっていなかった。 砂が挟まって、ところどころから血が滲んでいる両手の擦り傷が段々と乾いてきて少しだけ引きつってくる。傷口が風にさらされてヒリヒリと痛み、私はその痛みを受け入れて、静かに泣いた。
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