ⅩⅤ

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ⅩⅤ

「思い出したの、電話のことも写真のことも…一樹からも聞いたし…」 私は静かに起き上がって、先輩に伝えた。 目眩はしなかった。 「そっか…ごめん…あんな写真撮られて…俺がもっと藤田の行動に気をつけてたら、弥生に辛い思いさせなかったのに…」 先輩は悔しそうな表情を浮かべてそう言った。 先輩は優しい。 藤田はそこに付け込んだのだ。 そこまでするくらい、先輩を自分のものにしたかったのだろう。 こわい人。そして、可哀想な人。 「祐司は悪くないよ…」 私はそう言って、先輩の顔を真っ直ぐ見つめたが、先輩は俯いたまま視線を合わせようとしない。 藤田美紀のことがなければ、もっとうまくやれていたのかもしれないけれど、たらればは言っても仕方がない… 先輩はこれから厳しい警察学校に半年間行くことになる。簡単に連絡も取れなくなるだろう。 そして、私も合格していれば看護師としての新生活が始まる。 付き合いを続ければ、離れ離れの日々はこれからも続く。 それが辛くて苦しいことを私たちはすでに思い知らされている。 先輩が少しの沈黙の後に口を開いた。 「たくさん考えたけど…俺は夢を諦められない…弥生のそばにはいてやれない…弥生にしてやれることが今の俺にはない…」 「…うん」 私はただ頷いて、次の言葉を待った。 「…別れようか」 先輩が静かに告げた。 別れよう でも 別れてくれ でもなく 別れようか なのが、先輩らしいなと思った。 「…うん」 私はそれを受け入れた。 先輩が私に近寄づいてきて、私の背中に腕を回す。 私は先輩の胸に顔をうずめる。 そして、そっと先輩の腰に手を回した。 大好きな先輩の匂いに包まれる。 今までの嫌なことを全て忘れて、ただ先輩のことが純粋に好きでたまらなかったあの頃に戻れたらいいのに… 「ごめんな。今まで、ありがとう…」 先輩はそう言って、私から離れた。 そして、涙ぐんだ目を細めて微笑んで「バイバイ」と一度も振り返らずに病室を出て行った。 静まり返った病室にポツンと取り残された私は、背中に残った先輩の手の感触が少しずつ消えていくのを感じて、じわじわと悲しくなる。 別れることは考えていたのに、いざその瞬間が来た時の感情のやり場のことは考えてなかった。 涙が溢れて止まらない。 私は泣いた。 嗚咽混じりに泣き続けた。 どんなに泣いても、涙は枯れることがなかった。
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