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ⅩⅥ
リハビリは順調に進み、私は無事に退院した。
看護師国家試験にも合格し、附属病院での配属先も決まった。
就職祝いということで、親から最新のスマホを買ってもらい、さらに一人暮らしの準備も急ピッチで進めて、新生活が始まった。
松葉杖をついた新人ということで、研修中は少し目立ってしまったが、それもほんの数週間のことだけだった。
先輩との別れは悲しくて入院中は毎日メソメソしていたが、退院してからは超多忙を極めて、悲しんでばかりもいられなくなっていた。
それでも、やはり不意に先輩との思い出が蘇ったりして、そんな時は涙がこぼれてしまうこともあった。
先輩との思い出は、ありとあらゆる場所に潜んでいる。
ショッピングモールや駅前のマック、デートで着たお気に入りのワンピース、プレゼントでもらった雫モチーフのネックレス、お揃いのハイカットのスニーカー…
当たり前にあったものが意味を持って私を苦しめる。
どうしようもなく淋しい時は、友達や同僚と飲みに行ったり、気を紛らわす方法も徐々に覚えていった。
「弥生、明日の合コン来てくれない?」
入職したとたんに、タガが外れたように必死に彼氏探しする同期たち。
フリーの私にも度々声がかかるのだが、いつも何かと理由をつけて断っていた。
入職して半年が経過した頃、ふと行ってみようかなという気持ちになった。
公務員の山本さんと会ったのは、そんな初めて行った合コンだった。
長身で、無口で、所作に品がある人だというのが最初の印象で、どことなく雰囲気が先輩に似ていて意識せざるを得なかった。
山本さんも私に好意を持ってくれたようで、周囲のお節介も手伝って連絡先を交換したり、二人で会う約束を取り次いだりした。
前の彼女と別れたばかりだという山本さんは、まだ彼女が忘れられないと、正直に話してくれたので、私も先輩の話をした。
4歳年上の山本さんは、新社会人の私にとって大人で魅力的なのだが、どこか一歩踏み込めない自分がいて、二人の関係はなかなか進展しなかった。
とある休日、久々に休みが重なった一樹と利恵が部屋にやって来た。新人研修の課題を一緒にやることにしていたのだ。
課題の合間も、お互いの近況を話したり、上司の愚痴を言ったり、話は尽きなかった。みんなそれぞれ頑張っていて、悩みもあるけど、お互いに自分だけじゃないんだということがわかって安心する。
昼過ぎに集まったのに、辺りはすっかり薄暗くなっていた。
私はベッド脇に置いてるリモコンで電気をつけようとした時
「ごめん、これから彼とご飯だから帰るね。また集まろうねー!」
利恵がそう言って帰って行った。
「利恵、彼氏いたんだ…」
「あぁ、最近付き合い始めたみたいだね…俺らはどうする?」
「んー…お腹空いてないかなぁ…疲れたー…眠い」
私はベッドにもたれかかって、上半身だけ横たわる。
「…じゃあ、もう少ししたらラーメン食べに行かない?前言ってたところ味噌がうまいから、ヤヨにも食べてほしい」
「味噌いいね…一樹は本当、ラーメン好きだねー…」
日頃の疲れからか、睡魔に襲われて微睡む。
「…好きだよ……が一番…」
一樹がなにやら言っているが、もう夢現つで私は「んー…」と曖昧に返事をした。
そしてそのまま眠りに落ちた。
そして夢をみた。
先輩が会いに来て、優しく抱きしめてくれる。
そして決まって置いていかれる夢。
最近、毎日見る夢だ。
「祐司…」
私は自分の声に驚いて目が覚めた。
涙がひと粒、頬を伝った。
私と同じような格好で寝ていたらしい一樹は、私の顔を覗き込むように見た。そして一瞬驚いた顔をしたが、すぐに呆れたような顔で頭にポンと手を置いた。それからゆっくり優しく抱きしめてくれた。
「ヨシヨシ、泣きたいだけ泣きなさい。」
余計なことは何も言わずにいてくれる一樹の優しさに救われる。
「うん、ありがとう。大丈夫…さすが小児科勤務。」
「ははは。時々、お母さん達も慰めてるからね。」
「そうだよね、子供の入院は親のメンタルケア必要だよね…でもさすがにハグはダメですよ…」
「当たり前だろ!」
「どうかな…一樹は人との距離近めだからなー…」
「そんなこと…ないだろ……いや、気を付ける…」
私はフフフと軽く笑いながら、一樹から離れて時計に目をやった。
「あれ、まだ18時か。20分くらいしか寝てないんだ…1時間くらい寝た気でいたよ。お腹空いたし。」
「腹減るの早!じゃ、行くか。」
私たちはくだらない話を続けながらラーメン屋さんへ向かった。
一樹とはずっとこんな関係でいられたらいいな…と漠然と思った。
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