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深い口づけに甘い吐息。
恋人になったことを確かめるように、一樹が優しく私の頬を、肩を、背中を撫でる。そして、唇が首筋におりてきて、手はブラジャーのホックをいとも簡単に外す。
私は緊張で体が強張った。
心臓もバクバクと全身へすごい勢いで血液を巡らせている。
体が熱を帯びる。
「か、一樹、ごめん…ちょっ…まって…」
こういったことをするのは3年ぶり…
それに、今は仕事帰りだ。
心も体も準備がまだなのだ。
私が体を離そうと一樹の胸に両手を当てると、一樹の胸板からドクンドクンと
強い鼓動が手を伝って感じられるほどに激しい。
そして、一樹の熱を帯びた視線、男の顔。
今まで感じたとこのない色気を見せつけられて、胸が締め付けられた。
「シ…シャワー入らせて?」
「…あぁ…そっか、俺は入ったけど…仕事後だし入りたいよな…」
一樹はすんなり了承して、私を開放した。
こんなにすんなり了承してもらえると思っていなかった私は拍子抜けする。
「『やっぱ無理』って言われるのかと思ってビビった~…」
一樹がクローゼットからバスタオルを出して、私に手渡してそう言った。
「『やっぱ無理』はないけど…お…お手柔らかに…」
私はそう言った後、急に恥ずかしくなってバスタオルを顔に当てて、洗面所へ逃げた。
「何年待ったと…俺の忍耐力なめんなって言いたいとこだけど、5分で入ってきて。それ以上待てないから。」
一樹は私の背中にそう言い放った。
私は、私の知らない一樹の男の一面にすっかり魅了されていた。
一樹にこんな気持ちにさせられるなんて、思ってもいなかった。
胸の高鳴りが治まらない。
こんなにソワソワした気持ちで入るシャワーは初めてだった。
「終わった?」
脱衣所から一樹が声をかけてくる。
「え、もう5分?」
「あと1分」
私は急いで全身を洗ったが、どんな格好で出ていけばいいのかドキドキしながらドアをそっと開けて覗き見る。
一樹の姿はなくて、手の届く位置にスウェットとTシャツが畳んでおいてあった。私は手早く体を拭いて、それを借りて着た。それからバスタオルで髪を拭きながら一樹の様子をコソコソと伺った。
キッチンからジューっという何かを焼いている音が聞こえる。
それになにやら香ばしい匂い。
「腹減ってるよね?ヤヨが来る前に下ごしらえしてたんだ。焼きそば、もう出来る。」
本当に一樹にはかなわない。
すぐにでも抱かれるものだと思っていた私は気が抜けた。
「いい男すぎるわ!」
私は思わずキッチンに立つ一樹の背中に抱き着いた。
「ハハハ、気づくの遅すぎ」
「ごめんー…ありがとう。」
色々と回り道したし、たくさん道を間違えて迷子になっていたけれど、それでも無駄なことなんて一つもなかったと思う。
でも、一樹が一途に想っていてくれたからこそ、今の私がいるということに間違いない。
「大好きです」
私は、腰に回した手に力を込める。
「やっぱごめん、我慢できないわ」
一樹はそう言って、IHのスイッチを切ってフライパンに蓋をした。
それから私の手をほどいて、振り返って私の唇に優しくキスをした。
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