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「明日、16時半着の便だよ」 「OK、迎えに行くね」 異動で沖縄勤務になった一樹は、ひと足先に引っ越しを済ませて新生活をスタートさせていた。 私もようやく明日、沖縄へ引っ越す。 一樹に会うのは半年ぶりだ。 一樹と知り合ってから、こんなに会わなかったことは無かったし、恋人になってひと月で離ればなれは正直辛かった。けれど、これを乗り越えればずっと一緒にいられるという約束は支えとなって頑張れたし、やはり 結婚 という夫婦になる契約は最強だと思った。 着いていくにあたって、問題は仕事だ。 私の場合、理由なく異動願いを出しても受理してもらえないのは目に見えていたので、ロマンティックの欠片もないが、私たちはとりあえず入籍することにした。 私の両親は、娘がやっと身を固めることになって安心したらしく、結婚には直ぐに快諾。母は学生の頃から一樹のことを気に入っていたので、大変喜んでいる。 一樹の両親は穏やかな仲良し夫婦で、歳を重ねてもこんな風でいられたらいいなと憧れるような二人だった。一樹をこんな風に育てた両親というのが伝わるような人柄の良さで、上手くやっていけそうで安心した。 そんなこんなで、とんとん拍子で結婚して、特例での異動となった。 「まさか、こんなことになるなんて!少なくなった同期がまた二人も…淋しいなぁ…けど、めでたい、おめでとう!」 利恵は驚いてから、祝福してくれた。 それから、先輩の結婚式に出席したといって、写真を見せてくれた。 写真の中の先輩は恥ずかしそうに笑っていた。 それがすごく自然な笑顔で、幸せそうに見えた。 「奥さんね、出張ばっかりだったんだけど、結婚を機に部署異動したみたい。働き方も変えて、今は在宅ワークを増やしたって…妊活するんだって…」 「そう、幸せそうで良かった…」 私は心からそう思って、それが言葉となって自然と口からこぼれ出た。 ーーーーー 荷物の搬出を終えて「後は現地で」と、業者が 丁寧に頭を下げて去っていった。 何もなくなってガランとした部屋を見渡して、入居した頃を思い出す。 慌ただしく入居して、とりあえずとりあえずと、考えなしに物の位置を決めて、結局10年、そのとりあえずのままだったなぁ… そんなことを考えながら、私は部屋の写真を数枚撮って、空港へ向かった。 那覇空港。 飛行機を降りた瞬間感じる緩く湿った空気。 窓から見える南国チックな木々を見て、あぁ、来たんだなと実感する。 手荷物を受け取って出ると、一樹が笑顔で両手を広げて出迎えてくれた。 「いらっしゃい、奥さん。よく来たね。」 私は一樹の元へ駆け寄って、抱きついた。 一樹はギュッと私の背中に手を回し、それから頭にポンと手をやって優しく撫でてくれる。 あぁ、落ち着く。 私の居場所はここなんだと改めて感じた。 一樹の手が心地よくて、ずっとこのままでいたいと思った。 「ヤヨ?」 「会いたかった!もう離れない!」 私は幸せを噛み締めて、一樹を見上げる。 一樹はイタズラに笑って「離れんな。」と言った。 新天地での生活に、もちろん不安もたくさんあるけれど、一樹がいればきっとどんなことも乗り越えられる。 離れずに傍にいれば、迷ったって平気。 空港の出入り口が、西陽を浴びて眩しく光っている。 新しい世界へ飛び込む、私の心境を表しているように思えた。 「行こう…」 一樹は私の手をつかみ、指の隙間に自分の指を滑りこませてしっかりと握って、導いてくれる。 私はその手をギュッと握り返した。 そして期待を胸に、私たちは光の向こうへと歩みだした。 ーーー 了
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