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「ん…」 塞がれた唇 制服の中に滑り込む手 カラカラカラカラ…と何かをひっかけながら回り続ける扇風機の音 ほんの数センチの遮光カーテンの隙間から一筋光が差し込む 部屋中に広がるフレグランスはいつも仄かに香る先輩の匂い 本人から香るそれよりも、ほんの少しだけ濃厚だ。 それらを全身で感じながら、私は薄目で天井にある3センチほどの歪な形の穴を眺めたり、私の胸元に優しく唇を這わす先輩の顔を盗み見たりしていた。 けれどもふと目が合ってしまって、恥ずかしくなってギュッと目を閉じる。 すると先輩は、クスっと笑って、私の唇に悪戯に何度もキスをする。 わざとに音をたてながら。 フフフ 思わず笑ってしまう。 この上なく幸せだと思った。 不安や恐れなんか全くない。むしろ、早くそうなりたかった。 心地よい痛みを伴って、先輩でいっぱいになった。 ーーー ジンジンと、まだ何か挟まっているような違和感を感じて、もじもじと足を動かす。 先輩は眠たそうにしながも、私の様子を見てクスクス笑って「しちゃったね」と囁いた。 好きな人と肌を合わせることは特別なことだとわかっていたけれど、こんなにも甘美でくすぐったい気持ちになるのだなと思った。 そして、とめどなく湧き上がる『愛しさ』に驚いた。 好きのその先があることを知った。 もっと近くに、もっともっとくっつきたい… 「ね、そんなにグイグイ押されたら落ちちゃうよ。」 体は十分に密着しているのに、もっと近づきたい衝動に駆られて、グイグイ押していたらしい。 先輩は困り顔で笑って、私を力強く抱きしめてくれた。 「祐司クン…好き…」 自然と口からこぼれた言葉に、先輩も優しく返してくれる。 「オレも。」 付き合い始めて1年が経った夏の日。 私たちは繋がった。
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