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「あ、えっと…じ、事故の状況を教えてください」 警官は私からパッと視線をそらし、クリップボードの書類に目を落とした。 「あ、はい…」 お互いにしどろもどろしながらも、業務的に事故処理の手続きを進めていく。 私は事故の説明をしながら、目が合わないように警官をチラチラと盗み見る。 「では、免許証と自賠責の~…」 「あ、はい。」 警官が言い終わらないうちに、私は慌てて免許証と車関係のものが1つにまとまったケースを渡した。 車関係の書類って、いまいちよくわからない。ちゃんと覚えないとダメかなと車検の度に思うのだが、全てこのケースに収まるので、このケースを差し出せば相手が必要なものを探し当ててくれる。 「はい…あ…遠藤…さん。はい、確認しました…これでこちらは以上なんですけど…」 と、警官は免許証とケースを私に返しながら、もう1人の警官の方へと目をやるが、折戸と年長の警官は私たちの方をチラチラと見ながらまだ何やら話している。 免許証の写真、見たよね… 警官から受け取った免許証にチラリと目をやると、そこには今より明るい髪色で写った4年前の私が写っている。 うわぁ… 気恥ずかしい気持ちになりながら、ハッと気がつく。 ーーー 遠藤 弥生 生を受けてから32年間、私はこの名前だ。 苗字、変わってないなって思ったよね… どう思ったかな… 緊張しているところに、さらに追い打ちをかけてドギマギと心臓が暴れだす。 そして、焦燥感にも似て非なる感情が湧いてくる。 「げんき…してた?」 急に、形式ばっていた態度を一変させて、警官が口を開く。 警官は困り顔で笑っている。 観念したようだ。 「えっ!はい、元気です…せ…先輩は?」 このまま初対面の設定でやり過ごすものと思っていたのに、急な方向転換に私はひどく動揺した。 10年ぶりのちっとも変わらない笑顔。 でも、年齢の分だけ深みを増した大人の顔つき。 「うん、元気…」 「それにしても、こんな偶然あるんですねぇ…」 「いや本当、驚いた。」 私たちは平静を装って、当たり障りのない会話をポツリポツリとしながら、折戸の手続きが終わるのを待った。
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