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世間は本当に狭い。 驚いたことに、先輩と武史は従兄同士だった。 利恵も武史も、今日はお互いに2人で飲むつもりだったから、飛び入りゲストで驚かせるつもりだったらしく、まさかこんなことになろうとは思ってもみなかったようだ。 さらに、私たちが知り合いだということにも驚いていた。 しかし、「剣道繋がりだし、こんなこともあるんだね」と、腑に落ちたようでもあった。 利恵がするりと武史の横に座ったので、私は先輩の隣に座ることなってしまった。 先輩は、どうぞと隣の席に掌を向けて私を招く。 「先日はお世話になりました。」 私は先輩に事故のお礼を伝える。 話のネタにもなるだろうと思った。 すぐに話に食いついた2人に、私は事の始終を話す。 先輩は守秘義務があるので、私が話すのを時々相槌をうちながら聞いているだけだった。 話している最中、先輩の視線を目の端に感じて、その視線がとても優しくて、息が詰まる。 空腹と緊張でいつもより酔いが回るのが早い。 酔いが回ってきているのは武史も一緒で、決められていたことのように昔話を始めた。 先輩と武史の祖父が剣道の師範で、幼い頃から剣道づけだったこと、練習をさぼってこっそり家でゲームしてたこと、竹刀を部屋の中で振り回して天井に穴を開けたことを面白おかしく話し出す。 そうか、あの天井の穴は武史が開けたんだ。 ずっと気になっていたのに、聞いたことがなかった。 ぼんやりと、あの天井を思い出しながら、足をくずそうした時、先輩と肩がぶつかった。 「あ、すみません。」 無意識に先輩の顔を見上げる。 懐かしい香りが鼻をかすめる。 真っすぐに見つめ返す先輩の視線に吸い込まれる。 不意にあの甘酸っぱい日々の情景や、感情までもを呼び覚ます。 フフッと小さく笑って、先輩が私の額に自分の額をコツンとぶつけてくるんじゃないかと錯覚するほどに、私は酔っていたのだと思う。 気づけば、私は先輩の袖口を小さく引っ張っていた。 先輩は困り顔で笑った。
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