1

1/2

30人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ

1

ドン 大きな音とともに体が揺さぶられた。 一瞬、何が起きたのかわからなかったが、大きな音のした方に目をやった。 ーーー あぁ、やられた。 実家からの帰り道。 信号待ち停車中の私の車に、黒のSUVがぶつかってきたのだ。 車の窓越しに運転席の男性と目が合った。 申し訳なさそうな、やってしまったという後悔の表情を浮かべている。 大きな音がした割には、車のへこみは思ったほど大したことはなかった。 私の白のコンパクトカーは問題なく動くし、私自身も体に痛みはない。 「すみません、お怪我はないでしょうか。今、警察呼びますんで。」 安全な場所へ車を移動させ、車から降りてきた男の第一声がそれだった。 40代前半くらいだろうか、少々強面の男性が手際よく対応してくれた。 『折戸(おりと)』と名乗ったその男は、上下グレーのダボついたスウェット姿に無精ひげ、黒縁の眼鏡をかけている。 身だしなみに頓着がないのか、はたまた寝起きのまま飛び出してきたのか。 容姿はさておき、何度も頭を下げてくる姿には誠意を感じ、好感が持てた。 不思議と怒りはわいてこなかった。 自宅へ帰るだけだったし、母の手料理で腹も十分満たされていたからだろう。 映画や漫画だったら、こんな出会いから何かが始まったりするのかもしれないが、そんな予感は全く感じさせられなかった。 特に期待もしていないのだけれど。 折戸は、警察に連絡したのち、保険会社に電話しているようだった。 手際の良さからしても、おそらくこういった事は初めてではないのだろうなと、ぼんやりとその様子を眺めながらため息を一つついた。 私も過去に一度経験がある。 待たされる時間の長さと、事故処理にかかる時間のことを思うとため息をつかざるを得なかった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加