再会

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再会

今では俺の事も昔の友達ぐらいに思っていてくれればいいと気楽に考えていた。 その日仕事が終わって外へ出た時懐かしい呼び名で声を掛けられた・・・・・そう呼ぶのはあいつだけだった。 「柊吾(とうご)」 足が止まった・・・・・振り返ることが出来なかった。 「とうご・・・・・」 もう一度呼ばれて、俺は目を閉じて覚悟を決めて振り返った。 そこには変わらないあいつが立っていた・・・・・・6年ぶりのあいつの顔は昔と変わらなかった。 「つかさ・・・・・久しぶり」 平静を装ってそう答えた・・・・・他の言葉が見つからない、怒っているのか懐かしんでいるのかわからない、そんな顔で俺を見ていた。 「柊吾・・・・・話がある」 「あぁ~」 俺はあいつの後をついて行った、個室のある居酒屋に入る。 食事と飲み物が来るまでの間、沈黙が続いた。 あいつは俺の顔をずっと見ていた、俺は見られていることにたまらなくなって視線を外す。 注文の品が来て、あいつは言った。 「柊吾(とうご)なぜ黙って留学したのか聞きたい」 「それは・・・・・決心が鈍ると思って・・・・・」 「嘘だ」 「嘘なんかじゃない」 「あの時の俺の気持ち、わかるか?」 「・・・・・」 「突然いなくなって誰に聞いても何処へ行ったのか教えてもらえなくて・・・・・どうして何も言わないで行ったのか説明しろ」 説明もなにも本当の理由を言えるわけがない、どう言ったらいいのか頭の中で言い訳を探す。 俺は知らなかった、あいつがどれほど俺の事を探していたのか。 突然いなくなった理由もわからず、だれに聞いても教えてもらえない疎外感で大学も1年休学をしたといった。 俺はあいつに本当のことを言うしかないと思った・・・・・自分の事ばかりを考えてあいつがどれほど傷つくかを推し量れなかった。 「ごめん・・・・俺・・・・・・お前に言ってないことがある・・・・・誰にも言えなくて・・・・・お前にも誰にも言えない事なんだ、それが知れるのが怖くて逃げたんだ」 「一体何のこと言ってるんだ・・・・・」 「俺はずっとお前の事を友達以上の気持ちで見ていた、俺は・・・・・女を抱けない」 「柊吾・・・それって・・・・・俺の事が好きだったって事?」 「あぁ~友達じゃなく違う気持ちで好きだったんだ、その事を気づかれるのが怖くて逃げた」 「柊吾それじゃこのブレスレットは・・・・・お前の気持ち?」 「それ・・・・・まだ持ってたんだ」 「ずっと大事に着けてた・・・・・どうしてだと思う?」 「・・・・・・」 「お前からこれをもらった時すごく嬉しかった、俺とお前が同じ気持ちなんだって思ったから、それなのに・・・・・突然いなくなった時の俺の気持ちがわかるか?」 「同じ気持ちって・・・・・」 「俺もお前の事が好きだった・・・・・気が付かなかったのか?」 「気が付くわけないだろ、お前はずっと女子と付き合ってたのに・・・・・」 「お前だってそうだったじゃないか?」 「俺は・・・・・理由があってそうしてただけだろ、実際付き合ったって言っても手を繋いだくらいだったし」 「それは俺も同じだ、お前が女子と付き合ってたから・・・・・告られたのをいいことに適当に付き合ってただけだし」 「そうか・・・・・あの頃のお前は俺と同じことしてたんだ、知らなかった。  でも今はそうじゃないんだろ?」 「今は?どうゆう意味?」 「この前女とホテルへ行くとこ見たから」 「女と?」 「あぁー」 「そんなはずはない・・・・・俺は女とホテルへ・・・・・・アッもしかして・・・・・あれは女じゃない、男だ」 「男?そんなことない絶対女だった」 「女装してたんだよ、そうゆう趣味の男って事」 「でもホテルへ行ったのは?そうゆう事なんだろ?」 「お前だってそのホテルにいたって事じゃないの?同じだろ」 「・・・・・・いや、だって・・・・・・俺は・・・・・ただ・・・・・」 「ただ何?しただけって言いたいの?おれだって同じだろ」 「まぁーな」 墓穴を掘ったと気が付いた・・・・・俺にはあいつの事を攻める資格などない。 あいつはいきなりテーブルから身を乗り出すと俺の腕を掴んだ。 「柊吾これは?」 「アツ、それ・・・・・俺の手作り・・・・・」 「バカだなぁ~はっきり言えば6年も時間無駄にしなくてよかったんじゃないか?」 「まぁな、そう言うな・・・・・あの頃の俺の気持ち・・・・・一人で辛かったんだから」 「俺だって・・・・・・もういい・・・・・理由がわかったから、ところでお前今は?」 「今?なにが?」 「好きな人は?今も俺か?」 「な・分けねーじゃん」 「だったらなぜそのブレスレット着けてるんだ?」 「だってこれ俺が作ったんだし、気に入ってるから」 「俺とペアだよな・・・・・ずっと着けてたんだろ?」 「だから何?何が言いたいの?」 「今も好きなんだろ?」 「だったらなんだよ、俺の勝手だろ」 「付き合ってやってもいいけど・・・・・・どうする?」 「お前嫌な奴になったな、そんな奴はこっちでお断り・・・・・あの頃のお前が好きだったんだから」 「そっかじゃあ、このまま別れていいんだな」 「あぁ~」 「ほんとにそれでいいのか?後悔しないんだな」 「しつこい、お前はどうなんだ俺と付き合いたいのか?」 「うん」 「プッ じゃあ付き合えばいいじゃん」 お互いの顔を見つめ合う・・・・・・今笑ったばかりなのに涙が滲んでこぼれそうになる・・・・・鼻水をすするお前を見て俺が笑う、そんな俺を見てお前が笑った。 あの頃のお前と俺がそこにはいた、食事をして連絡先を交換してそれぞれの自宅へ帰った。 6年もの間一体何をしていたのか、無駄な時間だったとは思えない・・・・・その時間があったからこそ俺たちは今のお互いを認められたような気がする。 あいつから電話が来た、明日の約束をする。 明日から新しい付き合いが始まる、仕事が終わったら逢う約束もした。 こんな日が来るなんて思ってもいなかった‥‥…明日が楽しみで眠れそうにない。
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