神様からのおくりもの

1/2
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
 今回就任した新たな神様、タイラーという男は実に無慈悲な男であった。  物事を極端なほどシンプルに捉え、一度これと決めたら譲らない頑固さも持ち合わす。  厄介な奴が神様の座に就いたぞと、気の毒な地上の連中に知らせてやりたいが、あいにく秘書官の私はその術を持ち合わせてはいない。 ***  地上では小澤という男が、新たな遊びに興じていた。  飲食店でこっそりとイタズラを仕掛けてそれをネットに上げるという流行りの迷惑系YouTuberというやつだった。  その日も、地元の寂れたラーメン屋に友人と入り、迷惑行為を働くタイミングを今か今かと伺っていた。  その店は古くから在るような所で、年老いた店主がたった一人で切り盛りしている店だった。 「ビールくださぁーい!」  仲間内がにやけながらそう言うと、店主は前掛けで手を拭いながら応えた。 「はい、少々お待ちくださいね」  ボロボロのサンダルを足に引っ掛けたまま店の奥に店主が姿を消した隙に、小澤は卓に上がっている七味唐辛子の蓋を開けると、手のひらに収まるサイズのその小さな瓶を口に咥えてみせた。  ふざけた表情で口に瓶を咥え、両手でピースマークをつくる姿を、笑いながら見ていた仲間がスマホで撮影する。  店の奥からビールを運んでくる店主の足音が聞こえると、小澤は慌てて咥えていた七味唐辛子を卓の上に戻した。  仲間から見せてもらった写真には、思い切り寄り目をして七味唐辛子の瓶を咥えダブルピースをする自分のアホみたいな姿が写っていて、小澤は手を叩いて笑った。 「マジで傑作なんだけど! 今までの人生で一番映えた写真だわ」  ネットにあげたその写真には、思っていたほどいいねの数は集まらなかった。  腹いせにと、麩と海苔が添えられているいかにも昔風なその店のラーメンに星ひとつ付けて「店は古くて汚いし、ラーメンは不味くて最悪!」と書き込んでおいた。  小澤は翌朝目覚めて、顔を洗おうと眠い目を擦りながら洗面台へと向かった。  歯ブラシを咥えて顔を上げたとき、ようやく異変に気がついた。  鏡に映った自分の頭上に、黄金色に輝く星がひとつ浮かんでいるのだ。 「……は?」  星と言っても空に浮かぶあの光ではない、スマホの絵文字みたいにデフォルメされた、アレだ。  不思議なことにその星に触ることは出来るのだが、動かすことは一切できなかった。  どうしたらいいのか分からず途方に暮れ、ひとまず単位を落とせないのでそのまま大学へと向かった。  頭上に星を浮かべる小澤の事を大学の連中は珍獣を見るかのような眼差しで見つめ、友人達は笑いながらしきりに揶揄った。  そのまま数週間が過ぎ、テレビの特ダネニュースコーナーに一度だけ取り上げられたりもしたが、ひたすら笑いものにされ「お星さま野郎」という不名誉なあだ名までつけられた。  最も困るのは、頭上の星が邪魔で乗用車に乗れないことだった。  星が引っかかるので助手席に座る事ができず、唯一できるのは後部座席の上で横になり身体を小さく縮こませることだった。  おのずと車に乗れる人数が減ってしまうので、遠出には誘われなくなり、仲間はずれにするなと訴えると「後ろのトランクに乗るなら連れてってやるぞ」と笑われた。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!