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推しが卒業するらしい
僕が言葉を残すのは感情を保存するためだ。
今日は忙しい日だった。
日曜日だというのに研究室での発表のための資料作り。まぁ半年前から知ってたけど。
後回しからの先送り、保留に延期を重ね時間ギリギリ最後の12時間。そんな時間にならないとやる気がでない。悪い癖だ。
直す直さない云々考える暇もなく期限は迫るのだから嫌々手を動かすしかない。
耳の寂しさを紛らすために情報の少ない適当な動画を再生しながら徹夜でパワポを作る。
正に学生生活。
そんな日常。そんないつも通り。
毎分毎秒後悔して、結局間に合ってしまうから次もきっとこのまんまのダメニンゲン。
ダメニンゲンの日常だ。
「それ」を知ったのはそんな日常の時だった。
「卒業」
あまり好きな言葉じゃない。
アイドルや配信者、芸能人が活動を終える際にこんな遠回しな表現をし始めたのはいつからなんだろうか。
引退やら脱退をより前向きな言葉に変換しようとした結果なのだろう。
ただ辞めるだけじゃない、次へと繋がる機会なのだと。悲しい反面喜んで見送ってあげて、と。
だが配信で晒している一面しか知らない僕らにとって「次」なんかない。
見えないものは観測出来ない
ならばそれは存在すらしないものだ。
僕から見た世界の中でその人はもういなくなる。
世界中の人間とすぐ繋がれる現代において数少ない「別れ」、だ。
「死」なんて言葉は決して過言ではない。
せめて唐突でないだけまだマシなのだろう。
彼女は明日辞めると言うわけではない。
あと半年もの時間がある。
半年、それが余命だ。
せめて彼女がこの世界にいたと証明するために。
美しく楽しかった彼女の姿が未来まで残るように言葉を綴ろう。
なんて言えない。
言葉は感情を閉じ込めるガラス瓶だ。
綴るこの感情が楽しいなんて口が裂けても言えない。言えるわけがない。
余命半年の推しに、なんて言葉を掛ければいい?
だからこの備忘録はそんな前向きなものじゃない。
この暗い気持ちを切り分けて削ぎ落として欠片をホルマリンに浸けるだけの作業。
どう言葉に表せばいいか分からない悲しみに浸った感情の、迷いと現実逃避の標本録だ。
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