(おまけ) 達也と輝

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(おまけ) 達也と輝

 教室の窓から外を見た達也は思わず舌打ちをした。外はバケツをひっくり返したような雨が降り続いていた。日直の日誌を書き終え職員室に出しに行く頃はまだ持ち堪えていた天気も、担任から押し付けられた手伝いを終えるまでは耐えられなかったらしい。    期末テスト前で部活動も休みになることもあり殆どの生徒が既に下校したようで、達也のクラスも誰も残っていなかった。この土砂降りの雨の中を帰るのも面倒に思い、教室で勉強をしながら雨が弱まるのを待つことにする。まだ高校三年生で既に目標とする進路がある達也には、生憎とやることならいくらでもあった。  ひとまず今日の復習でもするかと自分の席に座り鞄から英語の教科書を取り出すと、教室の前のドアがガラッと音を立て勢いよく開いた。 「……あれ? まだ残ってたの?」 「お前はなんでそんなにびしょ濡れなんだよ……」  教室に入ってきたのは随分前に帰ったはずのクラスメイトの輝だった。輝は頭から水を被ったのかというぐらい全身ずぶ濡れの状態で、達也は体育用に持ってきていたスポーツタオルを取り出して「聞いてくれよ~」と言いながら近づいてきた輝の頭をガシガシと拭いてやった。 「おわっ!! 痛い痛い! もっと優しく拭けよ~」 「帰ったんじゃなかったのかよ」 「それが帰る途中で忘れ物に気づいて引き返してたら突然土砂降りになって。もう最悪だよ~」  輝は「タオル借りるなー」と言いタオルを頭に乗せたまま教室の後ろのロッカーに体育着を取りに行った。  達也はやれやれというようにため息をつきながら自分の席に着いた。そして少し前に見た光景を頭の中で反芻する。濡れた髪から滴る雫、濡れて肌に張り付くシャツ、透ける健康的な肌色……思い出し思わずゴクリと生唾を飲んだ。    達也が輝に出会ったのは高校の入学式の日。朝礼ギリギリにクラスに着いた達也が席に着くと、前の席に座っていた輝が振り向いて「おはよ! 俺、輝! これからよろしくな!」と明るく声をかけてきた。この時の達也の輝への第一印象は”子犬みたいなやつ”だった。明るく少し癖のある髪、童顔でどちらかと言うと可愛い系の顔立ち、新しい生活への期待が溢れるようにキラキラと光る瞳。心底楽しいというようにニコニコしながら挨拶してきた輝に達也は「よろしく」と一言素っ気なく返したが、この時の達也の心には、面倒だと思っていた高校生活に対して(まぁ悪くはないかも)と思う気持ちが芽生え始めていた。  席が前後だった事もあり二人は自然と一緒にいることが多くなった。明るく元気で、それでいてさりげない気遣いもできる輝と過ごす時間に達也は居心地の良さを感じていた。来るもの拒まず去るもの追わずで今までなんとなく途切れることのなかった彼女も輝と過ごすようになってからは断るようになっていた。  最後に付き合ったのは何度もしつこく告白してきた女子で、達也が根負けする形で付き合い始めたが「そんなに輝くんが大事なら輝くんと付き合えば!!」と言われ呆気なくフラれてしまった。しかしこの時、達也の心を占めていたのはフラれたことではなく輝と付き合うという選択肢に気づいた衝撃だった。  彼女の一言は達也にとって雷に打たれたような衝撃をもたらし、達也はその日の残りの時間を輝と付き合うことについて考えることに費やした。  とはいえ一度その可能性を認識してしまえば輝と付き合うことは達也にとって凄く心地よく理想的とも言えた。  あとはセックスのハードルだったが、達也は自分でも驚くほどあっさり越えられた。輝を想っての一人遊びはかつてないほどの熱い夜をもたらした―― 「達也は何してたの?」  意識が遠くへ飛んでいた達也は輝の声にビクッと体を揺らした。達也は動揺を隠しながら「復習」と一言返す。  輝のことは好きだけど今はまだ気持ちを伝えるつもりはない。もしかしたらこの先ずっと伝えないかもしれない。輝ことが大事で、玉砕して友達という関係すら手放すことになるぐらいなら、この気持ちを隠して友達としてずっとそばにいたかった。 「達也は偉いね。俺もテスト勉強やらないとなー」  そう言いながら学生服のズボンを脱ぎ始める。ベルトを外す時の金属がぶつかる音やジッパーを下げる音がいやらしく聞こえるのは自分の心に邪な思いがあるからか。友達の着替えを凝視するなど普通ではないので、気持ちがそちらに引き寄せられるのを何とか耐え冷静なふりをして教科書を眺める。 「なーこれ見てよ」  その声に顔を上げて達也はギョッとした。目の前には下は下着姿のまま「パンツまで濡れた~」と言いながら濡れたシャツをたくしあげる輝がいた。輝が履くグレーのボクサーパンツは雨が染みてまだらに色が変わっていた。その様子が凄く卑猥で達也は思わず絶句してしまう。 「なんか言ってよ……」  あまりに狼狽える達也を見て輝が恥ずかしそうに後ろを向く。 「ばっ馬鹿なことしてないで早く着替えろ。風邪引くぞ」  輝の無防備さは今に始まった事ではないが、自分達が男女であれば狙ってやってるとしか思えなかっただろう。しかし自分達は男同士であり、輝はきっと素でやっている。  達也はいかがわしい感情を必死に振り払いながら、輝は大事な友達だと気持ちを切り替える。  目の端で輝のことを捉えながらも正視しないようにしていると、濡れた制服から体育着に着替え終わった輝が脱いだ服を畳み始め、達也は安堵しながら輝に向き直った。 「何でパンツ脱いでるんだよ」 「えっ、濡れたままだと気持ち悪いじゃん……」  畳まれた服の上にはついさっきまで輝が履いていたボクサーパンツが丁寧に広げて置かれていた。  輝は少し恥ずかしそうに顔を赤らめ「仕方ないだろ」と小さく呟く。  達也は頭を抱えたくなった。なんて恐ろしいやつなんだ。わざとやっているのではないだろうか。恥じらう輝が可愛過ぎてどうかしそうな昂りを必死に落ち着かせるために達也は天を仰ぎながら深く溜息をついた。 「なんだよ、そんな呆れることないだろ!」 「頼むから、俺以外の前でそんな無防備なことをしないでくれよ」  言ってすぐ自分の失言に気づき顔を達也は仰向けたまま固まった。この発言は友人の域を出ているのではないか。友達相手に言うことだったのだろうか。それでももしかしたら輝だったら気づかずに笑って流してくれるかもしれない。  輝の反応が怖くて動けないでいると、輝が側に寄ってくる気配がした。  達也は恐る恐る輝の方を見ると、輝は顔を真っ赤にしながら達也のことを上目遣いで見ていた。 「達也にしかやらないよ……わざとだもん」  今、輝は何と言ったのか。達也が呆然としながら輝を見つめていると、輝は机をずらして椅子に座る達也の前に立つ。 「俺に言うことあるよね、達也?」  挑発的な発言をしながら恥ずかしさで目を潤ませる輝を見て達也も思わず顔を赤くする。自分がずっと期待しないようにしていた方向への急展開に狼狽えながらも間違えないように達也は一番シンプルな答えを返した。 「好きです……」 「俺も!」  輝が嬉しそうに抱きついてくる。ぎゅうぎゅうと輝に抱きつかれながら達也は夢、もしくは幻を見ているのではないかと信じられない思いで輝の背中に手を回した。  輝から体温が伝わってくる。手を伸ばしたくて仕方なかったものが今自分の腕の中にあることに徐々に実感と嬉しさが込み上げてくる。  達也からもギュッと輝を抱く腕に力を込めると輝から嬉しそうな笑い声が聞こえてくる。そのまま抱き合っていると自然と達也の膝の上に輝が座る方に収まった。  二人でしばらく見つめ合う。輝の自分を見つめる瞳から熱を感じる。そして達也も自分の中の輝に対する熱をもう隠す必要はないのだ。  達也が心の中で幸せを噛みしていると輝が「触ってもいい?」と聞いてくる。可愛いお願いに胸がギュッと苦しくなるのを感じながら達也は「いいよ」と返す。  輝が恐る恐る制服の上から達也の肩や腕に触れてくる。自分に触れたいと思ってもらえる事が嬉しい。  しばらく経って軽いお触りが終わると輝が照れを隠すようにまた達也に抱きついてくる。そのあまりの可愛さに胸が潰れてしまうかと思ったが、このまま心臓が止まってしまっても本望だと心の中で思う。  しかし死ぬ前に自分も輝に触れたい。  達也はそっと輝の膝に手を伸ばし何度か摩ったあと、そろりと体育着の裾から手を差し込んだ。輝は一度だけびくりの体を揺らしたが、達也の好きにさせてくれる。  手に吸い付くような滑らかな肌が気持ちいい。下着を履いていないので際どいところまで手を伸ばせてしまう。達也が夢中で輝の腿を弄っていると輝がくすぐったそうにモゾモゾし始めた。あまり調子に乗ると輝に引かれるかもしれないと名残惜しく感じながら達也が手を引こうとすると、達也に抱きついていた輝が徐に体を離した。 「なぁ、こっちも触って……」  そう言いながら輝はズボンのウエストを引き広げる。誘われるように達也が視線を向けると、先を濡らしズボンに糸を引いて震えるペニスが見えていた。  その光景を見た瞬間、達也の頭に一気に血が上る。 「なぁ達也……ってあ――!」  もう達也の許容量は超えていた。輝に「鼻血!」と言われ初めて自分の鼻から血が流れていることに気づく。そしてそのままフッと視界がホワイトアウトする。  遠くの方で輝の慌てる声がする。  達也はたくさんの幸せに包まれながら意識を手放したのだった……。
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