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「難しいこと言いますね。」
真顔で右近さんを見つめると、右近さんの横顔の口元が緩んでいるのに気づいた。なかなかに不気味なその笑顔にゾクリとしてしまう。
「右近さん?」
「ほーら、ほら。届かないだろー。」
足元まで伸びては、右近さんの足の先スレスレで止まり、引き返していく波を、ニヤニヤとしながら小さな声でおちょくっている。
「ほらまた。やーい。」
「右近さん。」
「邪魔しないで。」
「いや、あのですね、」
「悔しいだろー。あはは。」
「怖いですよ。やめてください。」
「なんで?楽しんでるんだけど。」
「それが楽しいと思ってるのが怖いんですよ。」
「やーい。また届かないでやんの。」
「右近さん、無視しないで。右近さんのために言ってます。」
「あは、今いけると思っただろ?ムリだよーん。」
「右近さん!海をおちょくってはいけない!祟られますよ!」
右近さんがやっと私の方を向き、長くてバサバサな前髪の隙間から私を見つめる。
「祟りが怖くて止めてたの?」
「いえ、右近さんの一人遊びが怖くて止めてました。」
「良かった。祟りなんて本気で信じてる大人、怖いもん。」
「あなたみたいな大人に言われたくない。」
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