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「あ、ごめん、ごめん。お待たせ。」
波に謝る右近さんに
「だからやめなさいって。」
と言うけれど、清々しいほどにスルーされた。
しばらく、不気味な右近さんの一人遊びを右から左に受け流しながら座っていると、
「ずっと座ってると寒くない?」
と磯谷部長がやってきた。私と右近さんの間に
「よいしょ。」
と座り込む。私たちと同じように体育座りをしようとするけれど、お腹がポヨンと邪魔をしている。仕方なく両足を伸ばして座ったその姿が、テディベアに見えてきて、私は慌てて頭を振った。
「海風、面白いね。」
テディ・・ではなく、磯谷部長に笑顔で言われて
「面白いですか?」
と訊き返す。その間も、右近さんは磯谷部長の隣で波をおちょくって楽しんでいる。
「うん。街中の風と吹き方が違うよね。ほら、右近くんの髪なんて、もう怒髪天のように下から上に。」
確かに、右近さんの鬱陶しい前髪は、風で上に持ち上げられて、いつも隠れている整った顔を世の中に晒させていた。けれど、不気味なニヤニヤ笑いと、ブツブツ呟く独り言のせいで、右近さん全体を取り巻くオーラは、結局、プラマイゼロに落ち着いている。
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