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1 そんな感じの学園生活です
正直――出会いは、最悪だった。
「江部琥陽です、よろしくね」
「……卯田颯珠、よろしく」
初対面なのでできるだけ良い印象を与えようと、琥陽はにこにこと笑みを浮かべ今日から寮のルームメイトとなる卯田颯珠へ手を差し出した。
彼は早めに来て荷物の整理を始めていたようだ。いくつかの段ボールは空にして壁に立てかけてあり、唯一残っている段ボールの中には少ししか物が入っていない。
しゃがみ込み、段ボールの中を覗いている彼は、立ち上がりもせずぼそりと自身の名を言うと琥陽の事を拒んでいるようにくるりと背を向けた。
差し出した手は虚しくも空回り、自分の手をぼーっと見た琥陽はその手を引っ込めると、大人しく彼の右隣に荷物を下ろす。
今日は入寮、明日は入学式。今日までに荷物を整理しなければと分かってはいるものの、すぐに動ける気力もない。
なのでそのままだらりとベッドに寝転がり始めた琥陽に、颯珠は「言っとくけど」と冷たい声で言い放った。
「オレ、あんたと仲良くなる気なんてないから」
そんな最悪な出会いから、はや半年。
「颯ちゃん!」
「琥陽!」
この二人は、校内でも有名なラブラブカップルとして知られるようになっていた。
「二学期が始まったが、一学期と同様節度を守って、多少性に奔放な学校だからと言って自制する事は忘れず……って、そこ! 言ったそばからいちゃつかない!」
始業式が終わった後のホームルームで早速指をさされたのは、琥陽と颯珠だった。
ここは特殊な学園で、高校なのに席が小中のようにくっつけられている。一番後ろのど真ん中で、手を繋ぎ合ってクスクスと笑みを浮かべる二人に担任である早野は教卓に勢いよく手をついた。
「仲が良いのは結構だが、君らは良すぎだ。俺の言葉を聞いていなかった罰として、放課後は俺の手伝いをするように!」
「え~」
「え~、じゃない!」
一つ結びにした長い髪を後ろで揺らしながら、早野は「ほら、手を離す!」と教卓から身を乗り出す。
仕方がなく手を離すと、早野はごほんと一つ咳をして続きを話し始めた。
琥陽の視線は先生に向かうが、颯珠の視線は相変わらず琥陽の方を向いており。
それに気づかぬふりをして、琥陽は話に集中するようそっと颯珠から身を離した。
颯珠は野暮用があるから後で合流すると言って、放課後琥陽は先に先生の所へ向かっていた。
新学期早々に居残りなんて最悪だ。それもこれも、颯珠が頬杖をついて手を握ってきたのが悪い。心の中の動揺を悟られないよう握り返していたら先生に注意されるし、颯珠を睨みつけるとふっと小馬鹿にしたように笑われた。
「う、わっ」
そんな事を思い出しながら歩いていたら、目の前で盛大に荷物をぶちまけた生徒がいた。慌てて琥陽は駆け寄ると、彼は琥陽を見て一瞬ビクッと背中が跳ねる。
大きな眼鏡に前髪で顔の半分を覆っている彼はクラスメイトだ。視線の先を琥陽から逸らし、「あ、ありがとう」と段ボール箱を受け取る。
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